素顔のまるⅡ

アメリカでの新たな生活

円里のアメリカに発つ日程が決まった。

8月20日。
9月から研究所の一員になる。

住まいと空の学校も既に手配は済んでいた。

円里の送別会が終わり、菊池は大学に戻ろうとする陣の背中を追いかけた。

最後に一つだけどうしても尋ねたかった。

足音に気づいて陣が立ち止まって後ろを振り返った。

「菊池か……俺が淹れたコーヒーでよければ一緒に飲むか」

そう言うと、あとは無言のまま構内に入った。

部屋の冷房が効き始めた頃、コーヒーの香りと共に陣が現れた。

イスの背にゆったりともたれながらコーヒーを飲む陣の姿に、何の迷いも感じられなかった。

「先生はいつ発つんですか?」

「8月30日に。俺の籍はこのままで、共同研究の名目で当分の間は月に一度はここにも来るから。辻先生と篠崎さんが随分裏で動いてくれたみたいだ。

参った……」

そう言って笑う顔は楽しげだった。

「マルちゃんには知らせてないんでしょう?」

「まあね。あの子のことだから、来るなって言うだろうな。だからもういいんだ。俺は崖っぷちのロープみたいなもんでいいかなと思って」

「崖っぷちのロープ?」

「そう。ぎりぎりのところで守る存在。命綱みたいな?」

暗い顔をした菊池に陣が言った。

「菊池くんが暗い顔しないの。俺さ、本当に自分が望んでそうしたいわけ。日本にいるとその役割果たせないからアメリカ行くんだよ。菊池くんに雑用押し付けて」

そう言って笑っている陣に胸が熱くなった。

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