虚上の迷宮

2 章 あちらには街


「……」

ピタ、と押し黙ったまま、シフォルスティンがその場で足を止める。

目の前にあるのは、どこまでも続く白の砂丘、青い空、そして、

「──どうかした?シフォン…シフォル、スティン?」

舌を噛みそうになりながら尋ねてくる赤毛の少年。

「“姫様”を忘れないで。─…どういうことなの?
いつまでたっても街なんて見えてこないではないの」

「だから…言ったじゃないか。
牢獄に街なんてあるわけないんだ。
それに“いつまでたっても”って言うほど歩いてないし」

半分弱気に、半分は強気にセディンが言ってくる。

実際セディンの言う通り、さほど歩いてきたわけではなかった。

せいぜいが10分くらいだろう。

振り返ると、セディンとシフォルスティンが出会った場所も遠目に見えるほどだった。

それでもシフォルスティンは腕を組んで言う。

「──いいえ、街はあるわ。私があるといったらあるのよ。
むしろあなたがないと思い込んでいるからいつまでたっても出てこないのよ」

「そんな、ムチャクチャな…」

困ったように訴えてくるセディンに、シフォルスティンは言う。

「──とにかく。もうこれ以上歩けないわ。
セディン、街を見つけてきて」

きっぱりと反論を許さぬ口調で言うと、セディンが「だから」と口を開く。

「街なんてどこにもないって言ってるだろ。
ないものをどうやって見つけてくるんだよ?
それに、そんなに言うんならシフォンが自分で……」

探して来ればいいだろ、という言葉は出てこなかった。

すぐ目の前に驚くべきものが姿を現したから。

真っ白な砂丘は、幻であったようにうっすら揺らいで消えてゆく。

かわりに出てきたのは古ぼけた石畳とレンガ造りの家々。

軒を連ねた店屋のテント。

「な…っ!?」

ぎょっとしてセディンが思わず後ずさる。

と、テントの一つから声が上がった。

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