文庫版鈴蘭学園物語~special episode~

鈴蘭学園物語②夏休み編 /夜明けのフィナーレside R





決して縮まる事のない差がある。


どんなに強くなろうと

どんなに身体が成長しようと

どんなに経験を積もうと。



どうして…


どうして俺はアイツより――…













雷壱 side




目の前が真っ赤に染まる。

頭の中の血が、沸騰する。


胸の奥から込み上げる衝動のまま、俺は周りにある物全てをぶち壊していた。




「っ、クソっ…!」



言いようのない苛立ちが身体に渦巻く。

傷付いた拳から血が床にポタポタと落ちていくのが、目の端に映って見えた。


ズキズキと走る痛みが手から来るのか胸から来るのか、今の俺には判断が付けられなかった。


ただ全てが煩わしい。

俺が再び激情の赴くままに壁に向かって拳を振るおうとした


…その時だった。




「らーいち、何してんのお前。」


「、…」



誰も近付かないこの場所に。

暗闇から月影の中に。


浴衣姿のソイツが現れたのは…。



斜めに差し込む月明かりに淡く浮かび上がるのは、朝顔模様の黒の浴衣。

頭には大きな花飾りが。


普段はめったに見ない女らしい格好に、胸の奥がザワリとささくれ立つのが分かった。




「あーもう、血ぃ出ちゃってんじゃん。

こっちおいで雷壱、怪我の手当てしよ。」


「……」



血の出ている拳を優しく手で包まれ、近くのソファーの方へそっと引かれる。

けれど俺はその場から動かず、手を引くソイツをただ睨み付けていた。


大抵の人間なら怯えの表情を見せる俺の威圧にも、ソイツは不思議そうにきょとんと首を傾げるだけだった。




「どうした雷壱?…いーち?いっちゃん?」


「…うっせぇ、」



昔の呼び名を口にするソイツ。

それすら俺の神経を逆撫でする。


ギリリと奥歯を噛み締めながらそっぽを向けば、ソイツは少し困ったように笑いながら口を開き…




「いち?なに拗ねてんだ?」



まるで駄々っ子をあやすように、優しい口調で語りかけるソイツ。

その態度に目の奥で赤い閃光がカッと弾ける。


気がつけば、俺はソイツの手を思いっきり振り払っていた。




「ガキ扱いすんじゃねえっ!!!」


「、雷壱…」



俺の怒号が、倉庫中に響き渡った。

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