文庫版鈴蘭学園物語~special episode~

半田 雅貴 /誤解が一つ

――――……




スズラン館一階、太陽寮寮長にて。

外部生黒崎誠ことクロを見送った俺は、一人クツクツと思い出し笑いを零していた。




「ホント、つくづく外見を裏切る奴だなアイツは。」



第一印象、変な奴。

第二印象、モッサリガリ勉。

第三印象、体育会系。


次から次へと印象の変わる後輩の、何とも面白い名言の数々が頭に浮かび思わず吹き出す。

ホント、こんなに笑ったの久しぶりだぜ。


何とも面白い奴が入ってきたもんだと今日何度目かになる感想を抱きつつ、少しは部屋を片付けるかと机の上に散らかった書類を纏め始めた。


…と、その時だった。




「――…思い出し笑いってムッツリがするんですよ、半田先輩。」



突然後ろから掛かった声に、俺は驚いて振り返った。

そして視界に捉えた人物に、更に目を見開く事になった。


そこに居たのはこの学園の、実質上No.2の地位に居る男。




「…桐原、」


「俺が入って来たのに気付かないくらい、楽しい事でもあったんですか?」



そう言いながら寮長室に足を踏み入れ、勝手にソファーに座るその男。

たったそれだけの所作からも、コイツの育ちの良さが窺える。


鈴蘭<ココ>に通う連中はそれなりに礼儀作法を躾られた人間が多いが、コイツはまた別格だ。

何せあの、『桐原』だからな。




「まあな。」


「…いつも不機嫌そうな貴方がそんなにご機嫌だなんて、珍しい事もあるものですね。

明日は槍でも降るんでしょうか。」



俺が素直に認めたのが意外だったのか、桐原は目をパチパチと瞬かせた。


どっかの国の王子様みたいな面してるくせに、平気で嫌みを吐きやがるお前に言われたかねぇよ。

その腹黒いとこ、学園の奴らが見たら卒倒もんだぜ。全く。




「で、お前は何しに来たんだよ。

明後日は入学式だろ、生徒会の仕事はどうした。」


「心配していただかなくてもしてますよ、ちゃんと。

今日もこれからまた学校にトンボ返りしないといけないので、その前にお茶でも飲たいと思って。」



ふうっと疲労の色を滲ませながら微笑む桐原に、俺の口角がヒクリと震えた。

言外に『茶ぐらい出せ』というソイツの台詞に、俺の額にはくっきりと青筋が浮かぶ。

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