文庫版鈴蘭学園物語~special episode~



つーかクロに『コイツ等』の事教えんの忘れてたな。

早いに越した事はねぇ、次会った時にでもちゃんと耳に入れておかねぇとな。




「でもおかしいですねぇ。」


「あ?」


「いえ、さっきまで反対の『月城』の寮長室で待たせてもらってたんですけど…。」



顎に手を当て、何やら思案する様子の桐原。

一方の俺は、そいつが『月城』と言った事に疑問を覚えた。


クロにも説明したが、ここスズラン館には二つの寮がある。

二階から左右に分かれていて、俺が管理してんのが太陽寮でもう一方が月城寮だ。


さっきまで待ってたって、何だって月城の寮長室で…。

だって、そっちは…




「こちらの太陽寮に来たという事は、その外部生は

『男性』

という事ですよね?」


「当たり前だろ、何言ってやがる。」



とぼけた桐原の問いに、呆れのため息を吐きながら答えを返す。




鈴蘭学園3年、半田雅貴。


太陽寮寮長もとい、

鈴蘭『男子寮生』専用寮寮長。


それが俺の、肩書きだ。


その俺のとこにクロの入寮許可書が回ってきたんだ、男じゃなかったら何だって言うんだ。




「妙ですね。

生徒会の方に送られてきた外部生の資料にはハッキリと、『女性』と記載されてたんですが…。」



はあ?女ぁ?

クロが、か?


どういう訳か顔写真が紛失していたので他に判断材料がない状態なんですけどね、と。

そう言葉を続けた桐原に対し、俺はついさっきまでいた噂の外部生の容姿を思い浮かべてみる。



170以上の身長。

地獄の上り坂を徒歩で制覇した体力。


パーカーにジーンズというラフな格好。

真っ黒なショートの髪。


前髪がモッサリで、顔の造形はよく分からなかったが。

何より自分の事を『俺』と、そうハッキリ言っていた…。




「…男以外の何者でもなかったぞ、単なる記載ミスじゃねぇのか?」


「…ですかねぇ。」







こうして誤解は解かれぬまま、真実は闇の中へ。

そして、そんな事になってるとは露知らず…





「ぶぇっっくしょんっ!

あー…誰かに噂でもされてんのかな。」




男子寮二階の廊下をとことこ進む、のんきな者が約1名。

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