文庫版鈴蘭学園物語~special episode~

一色 冬樹 /新入生歓迎会、前日






新入生歓迎会、前日の学校。

明日の新歓に向けて全鈴蘭生が浮き足立つ中、俺は一人憂鬱な気分でその日を過ごしていた。




「あ、言ってなかったけ〜?

俺〜今日の夕方から、ちょっと実家に帰らなきゃいけないんだ〜。」



本家から、呼び出しの電話があった。

それが、今朝の事。


すでに学園への連絡は済ませてあって、今日学校が終わり次第俺は『家』へ戻る事になっていた。

詳しい用件は聞いてないけど、実家までの移動時間やこれまでの経験から考えると、数日泊まりになる可能性が高くて。


嫌だな、帰りたくないな。

あんな、汚い『色』が蔓延る場所なんかに…。




「よかったじゃん、新歓出なくて済んで。」


「…うん、そうだね〜。」



マコっちゃんも気付いてる、家に帰るのが嫌だっていう俺の気持ちに。

けどあえてそれ以上は触れずに、話を違う方向に持っていってくれる優しさがありがたかった。


俺の『家』の大きさを何となく感じ取ってても、俺がそこに触れられたくないのをマコっちゃんは察して、俺の『家』について聞いてくる事はしなかった。


他人行儀なわけじゃなく、かといってグイグイ来るわけでもない。

俺の気持ちを慮って、適度な距離感を取ろうとするマコっちゃんの気遣いが心地よかった。




「GW中には帰ってくんだろ?戻ったらメールくれよな、一緒遊ぼうぜ。」


「らじゃ~。」



何気なく交わされる会話。


実家に帰るっていう憂鬱な用事の向こうにある、マコっちゃんとの約束。

そんな些細な楽しみに、さっきまで重く沈んでいた自分の心が軽くなるのが分かった。

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