文庫版鈴蘭学園物語~special episode~

鈴蘭学園物語②夏休み編 /残暑の候





カメラ side




――ちりんちりーん…




八月上旬。


立秋とは名ばかりの厳しい暑さが連日続き、日中地平線には陽炎が立ち上る今日この頃。

たまに降る夕立がいくらか暑さを和らげ、軒先から聞こえてくる風鈴の音が心を洗う。


けれどそれらを嘲笑うがごとく、灼熱の太陽は容赦なく世界を照りつけた。

地上を彷徨(サマヨ)う人々は一時の涼しさを求め、街角のガラス扉へと手を伸ばすのであった。







――カランッ…




「いらっしゃいませー。」






誠 side



暑中お見舞い申し上げまっす。

夏休みと書いてバイト三昧と読むのは俺だけでしょうか、黒崎 誠でっす。


八月に入り地元へと帰郷した俺は今現在、師匠の家でお世話になっていた。


ほら、母さんと住んでたアパートはもう引き払っちゃったからさ。

三鷹さんが自分んとこのマンション使ってもいいって言ってくれたんだけど、勝手の知れた師匠ん家の方が居心地がいいし。ね。




「黒崎くーん、八番テーブル注文お願ーい。」


「はーい。」



んでもって今は、隣町のレストランでウェイターのバイトをしてる俺だったり。

無論ギャルソンの恰好して、スカートじゃないのは言わずもがなです。


や、ちゃんと店には女って事言ってあるけどさ。
こっちの方が似合うからって事でスーツを支給されました。

夏休みと書いて稼ぎ時と読みます、夜は『BAR Noah』で働いてます誠でっす。




「ねぇ君新人さん?格好いいねー。」


「ありがとう御座います。」



俺が注文を取りに行く度に、お客さんからキャッキャッと黄色い声が上がる。


うん、女の子からのこの反応久々かも。

もっさり前髪は飲食店じゃ印象悪ぃから、黒ピンで上に留めてんだよね。


故に素顔でお客に対応中。
営業スマイルで接客中。

比較的女の子のお客さんに割り当てられてるような気がするのは、俺だけでしょうか気のせいでしょうか。




「黒崎ー、もう上がっていいぞー。」


「はーい。」



そんなこんなでバイトを始めてから早一週間が経過。

昼過ぎにバイトを上がった俺は着替え終えると背伸びを一つ、従業員用の裏口から外へと出たのだった。


にしても…




――ミーンミンミンミン…



(っ…あっちぃなぁ。)



一歩外に出れば灼熱地獄。

見上げれば青空には、大きな入道雲が悠々と漂っていた。



あー…夏だぁ。

0
  • しおりをはさむ
  • 118
  • 5956
/ 139ページ
このページを編集する