文庫版鈴蘭学園物語~special episode~



赤い悪魔の耳にかかっていた自慢の髪が、ハラリと前に流れて揺れた。




「…そんな女?」



ピリリッと。

一瞬にして部屋に緊張が走った。



大将『赤鬼』は普段は気のいい男だった。

粗暴で大ざっぱだが、面倒見のいい兄貴肌の男だった。


だがある事柄に対して、その了見はグンと狭くなる。




「――俺が惚れた女を、そんな女呼ばわりか?」


「…ぁ、いや…」



睨むなどしなかった。

むしろ口角を軽く上げながら、若者を真っ直ぐと見据えただけだった。


ただそれだけで若者は、石のように固まって身動ぎ一つできなくなってしまっていた。


『赤鬼』が一人の女に熱を上げている、それはこの世界では度々耳にする噂だった。


若者はずっと疑問だった、なぜ天下の『赤鬼』がこうも一人の女に固執するのかが。

それはこの若者だけでなく、この世界に入って日の浅い者は疑問に思っている事だろう。


だがそれを口に出してはいけない。

知らない事に、分からない事に、安易に首を突っ込んではいけない。


この世界に限らず無知である事は、ともすれば命取りになるのだから。



そんな事を言ってももう遅いのだけれど。




「ぐがっ!…っ、っぁ…、すみま…せ…俺…!」



次の瞬間には、その下っ端の若者は鼻から血を出し床に伏せっていた。

辛うじて謝罪の言葉を口にできたのは、下っ端と言えど幹部クラス直属の人間だからか。


普通なら声を上げる事すら不可能だろうに。

案の定その若者も、そのまま意識を手放してしまった。




「『鷹』の連中もアイツを探してるってのは本当か?」


「…ああ、ここ半年近くあの人は『鷹』の溜り場にも顔を出してないらしい。」



ゴキリと肩を鳴らした大将『赤鬼』の問いに、幹部の一人が顔色も変えずに言葉を返す。

幹部の人間は皆知っていた、『赤鬼』の渇望を…その狂愛を。


アイツ、あの人。

それらが一人の人間を指して言ってるのは、言わずもがな。


ソファーから立ち上がった『赤鬼』は、硝子越しに眼下で踊り狂う人々を見下ろした。



自慢の真っ赤な髪をかき上げ、笑う…鬼一匹。







「大好きな『鷹』がブッ潰れたら、さすがのお前も姿を現すか?


―――…なあ、マコト。」





チーム『ナイトメア』。


初代大将『赤鬼』。



ここ数年で結成された新興勢力であるそのチームが、古参『鷹』と全面戦争を巻き起こすのは…それから直ぐの事。

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