文庫版鈴蘭学園物語~special episode~





――ガラガラガラ…


「ただいまー。」



商店街のおつかいから帰宅なう。

夕日の差し込む玄関扉を開け、買ってきた荷物を一旦式台の上に置く。


思わずふぅっと深呼吸一つ。
両手でパタパタと顔を扇ぐ。

夕方いくらか涼しくなるーっつっても暑いもんは暑いし。
あー、麦茶一気したい。


そんな事を思いながらビニール袋を両手にトテトテと台所へ。

買ってきた物をあらかた片付け終えた俺は、居間にいるであろう二人に向かって声を掛けたのだった。




「千代子さーん、美里の準備終わったー?」



ちなみに顔を隠す必要のなくなった俺は、お気にのピンで前髪を留めておりまっす。

相変わらずTシャツにジーパンっつーラフな格好、もちろんサラシなんか着けてません。


んでもって、美里はというと…




「お帰りマコちゃん、ちょうど今終わったところよぉ。」


「あっあの、どうでしょうか…?」



台所から居間へと顔を出せば、千代子さんに着付けされた浴衣姿の美里がそこにいた。

浴衣は白の木綿生地に、若草色の水草の間を黒と赤の金魚が泳いでるっつー昔ながらの柄。


帯は濃い山吹色。

パーマがかった髪は軽くお団子にして、かんざしを使って後ろで留めてあるみたい。




「お、似合う似合う。サイズはど?ぴったし?」


「はっはい、でも宜しかったのですか…?お母様のを貸して頂いて…」


「いーのいーの、俺が着るには小さすぎるしな。」



美里が着てんのは、俺の母さんが十代の頃着てたっつー浴衣だ。

ちなみに千代子さんのお手製、小柄で童顔だった母さんにピッタリだったそれは美里にもジャストでフィット。


今夜町内でお祭りがあってさ、せっかくだから浴衣着て行こうって事になったんだよね。


俺が着るには可愛すぎるし。
かと言って捨てられるわきゃないし。

師匠ん家で預かってもらってたんだけど、再び陽の目を見る日が来てよかったや。うん。




「さあ、次はマコちゃんよぉ。」


「え、いいよ俺は。」



千代子さんのセリフに、俺はふるふると首を振った。


や、嫌ってわけじゃないんだけど何か気恥ずかしいっつーか。
普段スカートすら履かねぇ俺にとっちゃ、浴衣って何か心許ないっつーか。

それにほら、去年に比べて背も伸びたしさー。




「そう思ってちゃあんと袖丈と裾直しておいたわぁ。

元々大きめに作ってあるから、肩幅も問題ないだろうし。」


「わっ私も、誠さんの浴衣姿ぜひ見たいですっ!」


「……」



まじでか。

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