文庫版鈴蘭学園物語~special episode~

鈴蘭学園物語②夏休み編 /偽りのカプリッチオ





PM 10:27




カメラ side




――ざわざわざわ…

――ざわざわざわ…



CLUB『NigHtMarE』。


定休日である今夜、一階ダンスホールには客の姿はなく。

代わりに金やら青やらオレンジやら、カラフルな髪の男達で溢れていた。


いつも流れている騒がしい音楽はなく、代わりに男達の談笑する賑やかな声がそこかしこから聞こえてくる。


その一角。

二階へと続く螺旋階段近くで、一人の若者が声を荒げていた。




「――はあ!?人違い!?テメェらが言ったんだろ、『浴衣着た女』って!」



携帯片手に怒鳴り声を上げているのは、鼻を負傷してるらしい男。

そのすぐ傍にあるソファーには、気を失った一人の少女が寝かされていて…。


周りの男達はその浴衣姿の少女を物珍しげに見つめながらも、荒れている男を敬遠してか遠巻きにしか見てこなかった。

電話の相手と何やら揉めている様子の男は、苛々としながらガシガシと頭をかき回していた。


その顔には若干焦りの色が浮かんでいて…




「だから言ってんだろ、他に女なんか居なかったって!

どうすんだよっ!?テメェらが間違えないっつーから、俺は大将に…!」



と、その時。


ガチャリ…とクラブの扉が開かれ、騒がしかった店内が一瞬にして静寂に包まれた。

電話をしていた若者もそれに気付き、ゴクリと喉を鳴らしゆっくりと耳から携帯を離す。


入り口から螺旋階段まで一本の道が開け、コツコツと靴を鳴らしながら悠然とそこを歩く…鬼一匹。




「お疲れ様ッス大将!」


「お疲れ様ですっ!」


「おーう、元気か野郎共。」



不良と呼ばれる類の屈強な男達が背筋を正し、次々と『赤鬼』に頭を下げていく。

その後ろに続くチーム幹部の面々に対しても、同様に挨拶をする声が上がる。


自慢の真っ赤な長髪を靡かせ、螺旋階段へと向かう男。

だが『赤鬼』は途中で歩みを止めると、その足先を階段脇にあるソファーへと向けたのだった。




「……」



ソファーの前に腰を屈め、いわゆるヤンキー座りのまま眠る少女の顔を覗き込む『赤鬼』。

その傍には、ダラダラと冷や汗を流しながら立ち尽くす…あの若者の姿が。




「……これがお前の言ってた『マコト』か?」


「っ、すっすみません大将…!どうやら人違いだったみたいで…」



若者がすぐ自分の非を認めたのは、何もこの若者が素直だからという訳ではない。

若者は知っているのだ、この男に誤魔化しの類など一切通用しない事を…。

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