文庫版鈴蘭学園物語~special episode~

鈴蘭学園物語②夏休み編 /真夜中のマーチ





カメラ side




PM 11:31



ところ変わって、町外れにある廃れた倉庫街。

人気のないそこから聞こえるのは、風に転がるゴミの音と野良猫が寂しく鳴く声だけだった。


静寂に満ちた倉庫街の一角から、可憐な少女の激しい怒号が響き渡るまでは…。




「はぁ!?兄貴をたった一人で行かせた!?何で誰も止めなかったのよ!!」


「ふっ風子さん、落ち着いて。」



一棟の倉庫内。


その中央で『風子』と呼ばれた少女が、傍らの坊主の少年の襟首を掴み上げていた。

長い黒髪を後ろで三つ編みに束ね、木刀片手に荒れる彼女を周りの人間はハラハラとしながら見つめている。


倉庫内にいたのは、ざっと見ただけでも五十人前後の男女。

全員、チーム鷹の主力メンバー達である。




「なっ何でもナイトメアの連中が、マコトさんの身柄を確保したとかで…」


「、マコ姉を…?また『自称マコト』とかじゃなくて?」



三つ編みの少女は、坊主の少年の襟首を離しながら訝しげに眉を寄せた。

その言葉の通り、この数ヶ月間『マコト』を名乗る女性が相次いでいたのだった。


それは偏(ヒトエ)に『赤鬼』の寵愛を狙う女性達の虚言であり、『赤鬼』本人によって直ぐに否認されていた。

最近ではこの手の噂も、話題に上る事も少なくなっていたのだが…




「それが『赤鬼』がマコトさん本人だって認めたらしくて…」



少年は咽(ム)せながらも、今夜…つい先程掴んだ情報を口にする。


数十分前。

その情報を聞くなり飛び出していってしまったのが、我らが十代目総長である『雷神』だった。


短絡的な思考が玉に瑕(キズ)の兄の事を思いつつ、少女は深いため息を吐いた。




「風子さん、どうしますか…?」



約五十人近い人間の目が指示を求め、一人の少女へと向けられる。

彼女は薄々感づいていた、これがナイトメアの…『赤鬼』の罠かもしれないという事を。


だが…




「…決まってんでしょ、『鷹は仲間を見捨てない』。」



それは暗黙の内に代々受け継がれてきた鷹のポリシーであり、チームの誇り。

三つ編みの少女は少女らしからぬ鋭い瞳を、今はまだ見ぬ遠くの敵へと向けた。







行進曲<マーチ>



―――『風神、出陣』






「行くわよ野郎共、マコ姉をナイトメアになんか渡してたまるもんですか。」



鷹が行(ユ)く。

その確固たるポリシーと気高い誇りを胸に、真夜中の暗闇を進み…切り開く。

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