アイスクリーム狂詩曲【完】

2 彼女からみた世界


藤田みのりは電車に乗り込むと座席の一番端へと腰掛けた。


この路線は朝のこの時間でも満員にならない。


ただ乗客のメンツはいつもどおりで、毎朝同じ場所に立つのは暗黙の了解の様になっていた。


鞄から小説を取り出して、栞を挟んだページを開く。


普段から熱心に本を読んでいるわけではないのだが、朝のこの時間に一度本を読み始めてから、日課になってしまった。


数駅行った駅で、みのりはふと顔を上げた。


プシューッと音を上げて開いたドアから数人乗り込んでくる。


その中の背の高いクラスメートの姿を見止めると視線をまた小説へと落とした。


谷口章はいつも最後に乗り込んで入口の所へ寄り掛かる。


鞄は肩にかけていて、両手はいつも制服のズボンのポケットの中。


そして白いヘッドフォンをいつも装着していて、視線は窓の外へと向く。


谷口くん、いつもどおりだ。


みのりはいつも章のアンニュイな雰囲気に心の中でくすりと笑ってしまうのだが、ほんのわずかに口の端が持ち上がるのを章が見ていることには気が付いていなかった。



『――駅ー、――駅ー、降り口は左側です』



車内アナウンスが聞こえ、みのりは小説に栞を挟むとぱたんと閉じた。


あと駅二つ行けば降りなければいけない。


空いたドアの向こうへとを振り返り、この電車から降りたはずの姿を探した。


鞄をリュックの様に背負い制服のズボンへと両手をつっこんで歩く男がみのりをちらりと見て階段を上がって行く。


顔を戻したみのりはその視線を章へと一瞬走らせて、珍しく降り口のホームを見つめる視線に内心首をかしげた。

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