青薔薇荘に夢などない

第一章 住人達は概ね偏屈 /≫K病院のうどんと、愚鈍な主治医



 診察室の主治医は、冷気をまとう。


 「失礼致します、鏡月先生」


 書類を届けにきた所作や口調が丁寧な事務員に一瞥もくれない。


 しかしながら、凍てつくほど月は輝きを増すものだという。


 事務員は心持ち頬を上気させて、書類をパソコンの乗ったデスクの端に置く。


 「ありがとう、砂羽さん」


 主治医の斜め後ろにいる臨床心理士の黒石先生が、苦笑いしながら代わりに応えると、「砂羽昭代」と書かれた名札をつけた事務員は「いいえ」とそれこそ事務的に答え、名残惜しそうに診察室を出た。


 砂羽さん、性格より、顔なんだな。わかるけど。


 閉じた二番診察室の扉。私が通う大学病院の精神科には、診察室が十室ある。


 患者はそこにところてん式に通されて、たかだか十分程度の面接を経て、精神安定剤の処方を受けるのだ。


 「では、次回の診察は二週間後で」


 主治医は、私の目を見ない。もう終わりだ、出て行けという態度。


 でも、私は知っている。

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