少年

あの日から30年が経った。



キムはあの後、少年のことはアカネと二人だけの秘密として墓場まで持っていこうと取り決め、少年のことは忘れようと努力した。

少年に何かあったら来るはずの連絡もなく、キムもアカネも次第に本気で忘れられるようになっていった。

あれは夢だったと思うことさえあった。

キムだけは、番号とメアドを同じもので繋いでいかなければならないことで、スマホを代える度現実感を持ったけれど。


さすがにあの直後は、責任感で可也入れ込んでいただけにキムの動揺も激しく、数日休校したりもした。
しかし、キムのトニーアカネが例のごとくジャービスキムを励まし続け、なんとか立ち直ることができた。

キムは人が変わったように翌年の大学受験に向けて励み出した。
何かに熱中することでしか自分を支えられなかったのだろう。
たまたま大学受験という一番選び易い選択肢が目の前にぶら下がっていたから、それにしがみついただけのことだった。

キムにとってはぶら下がっていたのが別のものでも、掴みやすければそれを選んだだろう。

ただ、大学進学など眼中に無かったキムの変貌ぶりに、両親が喜んだのは言うまでもないが。

アカネだけは、その頃のキムに不安と哀れみを持って冷静に見守っていた。



キムは大学で何を学びたいかなどどうでもよく、ほんの少し興味のあった心理学科のある大学に入学した。

学んでいくうちに興味がどんどん深くなり、勉強も楽しくなって、哲学や脳科学、生物学などにまでその域を広めていった。

同時に、プライベートで絵画や音楽などの芸術にもうち込んだ。

アカネは別の大学で文学を学び、中学の教職免許を取得して中学教師を勤めながら、キムとは相変わらずの付き合いを続けていた。

マルチな才能を見い出し始めたキムを見守りながらアカネは、ふと『あの少年への理解を深めたい潜在意識がそうさせているのではないか』と感じることがあった。

そしてアカネ自身が中学教師の道を選んだ理由もまた実はそこにあるのかもしれないとも感じ始めていた。






つづく





1018年4月6日(金) 投稿 著者アイカ(M・S)





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