カーテン越しの君【完】

カーテン越しの君 /飴をくれた理由




カーテンの向こう側で相槌を打つような声すらしないから、果たして彼が本当に私の話を聞いているかどうか分からなかった。


まるでひとり言のような私の話を黙って聞き終えた彼は、数分ぶりに口を開いた。



「あんたは、そいつのどんなところが好きだったの?」

「やっぱり、透き通った歌声かな。半分憧れで半分恋。彼の歌が魅力的だから、彼の歌の順番になると異様に胸がドキドキしちゃったりして」


「ふーん、魅力的な歌声…か」

「大雪が降ったら彼に会えるかな、なんて未だに再会を期待しちゃったりして。大雪の日に彼と再会した時に私がこの飴を見せれば、少しは記憶の頼りとなって私の事を思い出してくれるかなって」


「…でも、そいつは何であんただけにその飴をくれたんだろうな」

「わかんない。他の子と比べると、私の歌唱力が圧倒的に劣っていたからかな」



セイくんが言う通り、彼が私にだけ飴を渡す理由を今まで深く考えた事がなかった。

いつも星型の飴を持ち歩いていた事も、いま考えてみると謎に思う。



「また、そいつに会えるといいな」

「でも、あれからもう六年経ったし、皆川くんはもうその約束を忘れちゃってるかもね」


「…いや、しっかり覚えてるかもよ」

「えっ…」



驚きの声でカーテン越しの彼の方に目を向けて返事をした、その時。


ガラッ…



「セイ。もう時間だよ」



保健室の扉が開き、暫く席を外していた養護教諭は、扉方向から彼の名を呼んだ。



「…ごめん。時間が来たから、もう戻らないと」

「ん。バイバイ、セイくん」



ベッドから立ち上がる音とカーテンの開く音が聞こえた後、二つの靴音は徐々に扉方向へと遠退いて行った。

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