カーテン越しの君【完】

カーテン越しの君 /耳に飛び込んだ鼻歌

「紗南〜。急に立ち止まってどうしたの?早く教室に戻ろう」

「あ、うん」



今さっきまで菜乃花の腕を引いていた紗南だが、いつの間にか菜乃花に立場を逆転されていた。


急かされた紗南は団体から目を外し、教室に戻る為に後ろを向いた瞬間。




ーー突然。


紗南の背後から、《For you》の鼻歌が耳に飛び込んできた。



セイの鼻歌が紗南の心を引き止めた時。



「セイくっ……」



気持ちが激しく揺さぶられた紗南は、振り向きざまにセイの名を叫んだが。


無残にも閉まり行く視聴覚室の扉に…


あと少しの声が届かなかった。



ゆっくりと閉ざされていった扉は、まるで今の自分達の境界線のようだった。

芸能科のセイと普通科の紗南との関係が、ここまでなんだと知らしめているかのように思えた。





もしかして、セイくんがいま私に向けて鼻歌を歌った?

もしそうだとしたら、セイくんは既に私の顔を…。




なかなか会えないもどかしさが、軽く胸を締め付けた。



一方の視聴覚室に入ったばかりのセイは、紗南に会えた満足感で、フッと砕けた笑みを浮かべた。



「やっぱり、あいつ紗南じゃん」

「…え?紗南って?」


「んー、ひとり言」



友達の隙間から成長した紗南の姿を見たばかりのセイは、胸を熱くしながら紗南に会えた喜びを深く噛み締めていた。

0
  • しおりをはさむ
  • 12
  • 224
/ 40ページ
このページを編集する