それが罪だとしても…【完】

18章 守りたい気持ち

 
俺が初めて柚を見たのは、
まだ彼女が「子供」と呼ぶほうが近いくらい、幼い時だった。


「癌……?」


俺が22歳の時、母親が乳がんだと分かり入院。


物心つく前に、父親と母親は離婚していて
女手一つで育ててくれている母。

女物の下着メーカーの会社を設立し、それなりにうまくやっているみたいだった。


忙しい母の背中を見ながら育ったけど
特別、寂しいとか、放っておかれているという感覚はとくになくて、
代わりに母方のばあさんが、俺を育ててくれていた。


だけどばあさんは、俺が17歳の時に亡くなって
それからは部屋で一人でいることが多い。

だけど17歳ともなれば、とくに母親が恋しいと思うほどマザコンでもなかったので、十分すぎる暮らしを与えてくれる母には感謝しているくらいだった。



そんな母が、乳がんだと分かり、
驚きと衝撃を隠せなかったのは事実だ。


発見したのが初期段階ということもあり、
手術をすれば大丈夫と医者にも言われたので、会社を放っておけないとワガママを言う母親を抑えて、なんとか入院させたのを覚えている。

手術が終わるまで、安静にしないといけないのに
暇さえあれば仕事をしようとする母親を監視することもあって、大学が終わると見舞いに来ることも多かった。



「ちょっと今から検査するので、外で待っててくださいね」


見舞いに来たとき、看護師にそう言われ、病室を出てロビーで待っていた。


「あと1週間か……」


手術までの日を数えて、ぽつりとつぶやく。
なんだか、俺のほうが緊張する。



「こんにちは!お母さんいますか?」



その時、ふとナースステーションのほうから、似つかわしくない声が聞こえてきた。
 

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