龍のナミダ Ⅰ 【完】

崩れゆく日常 /吹き始めた風



響の前に姿を現すと、嬉しそうに目を細めて笑った。



「おっ!いいじゃん、いいじゃん。
キラも顔は女みてぇだし、全然アリだろ。

つーかキラと間違われるかもな…

まぁ、メット被っちまえば顔なんて分かんねぇからな、平気だろ。」



そう言うと1階のガレージに降りて行った。




後を追いかけて行くと


「ほらっ」


黒いヘルメットを私に投げて寄こした。


『え…?』


それは今から走りに行く事を意味する。


『ちょっと待ってよ、いきなりそんな…』



また私の言葉をスルーして、響は別の黒いヘルメットを被りワインレッドのバイクへ跨った。



奏が乗ってた――


綺麗なワインレッドのバイクに。



『それは響のバイクじゃない―…』


言いかけた言葉を遮って響が答えた。



「奏のだけど、元々は俺の。

今、あのバイクはお前だけの物だ。」



そう言って黒いバイクを顎で示した。



分かってる…


もう、響は黒いバイクに乗れないって事。



分かってるけど、私が乗ったら許されないような気がしてならない。



乗る事を躊躇っていると、痺れを切らした響が


「置いてくぞ?」


と、バイクのエンジンをふかし始めた。



…ホントに強引!


私に迷っている暇は無い。



『~~っ!!』


心の準備が出来ないまま、半ばヤケクソ気味にバイクに跨った。




もう二度と乗る事は無いと思っていた、黒いバイクに。





0
  • しおりをはさむ
  • 62
  • 120
/ 281ページ
このページを編集する