雲が描いた月明かり 虹

資泫堂のお泊まり会

「世子様の後ろ姿はどうだった?」
ビョンヨンの背を叩いてやりながら聞くとサムノムは
「すっごく無様でした!」
と手を叩いて大笑いした。
-このやろう(怒)-
「ぶ、無様とはなんだ、後ろ姿とはいえ仮にも世子様だぞ」
ビョンヨンの言葉にヨンが睨む。
「お前が言うな、キム別監?」
「…ゴホ」
小さく咳き込んで黙るビョンヨン。
「でもまぁ1度くらいお顔を拝見したかったかなぁ」
サムノムが呟いた。
「その内嫌でも見れるだろ」
ヨンが言うとサムノムはただ笑っただけだった。
「………」
やはり最後の試験は確実に不合格を取るつもりなのだろう。
一体どんな手を使ったのか。
ヨンが訝しんでサムノムを見ると、その顔に雨粒が落ちる。
「あ」
サムノムが空を見上げた。
瞬く間に雨が降りだし、ビョンヨンが腰を上げた。
「世……ゴホ! 早く中へ」
ヨンは頷いて立ち上がり
「お前も早く来い」
サムノムを見るとサムノムは膳を抱えてヨタヨタと資泫堂に向かう。
「そんなもの置いておけばいいだろう」
焦れったそうに言うと
「コレだから”花若様“は、まだ食べれるのに勿体ないでしょ、残りは明日の朝食べます」
ヨンは息をつくとサムノムに駆け寄り膳を半分持ってやる。
それを見てビョンヨンも膳を持ちに駆け寄った。
サムノムは嬉しそうにニッコリ笑い3人で資泫堂の中に入る。

「うわー、本降りですね、止みそうにないや」
「どうしますか?」
ビョンヨンが小声でヨンに尋ねる。
「……今夜はここに泊まる」
サムノムともう少し話をしたかった。
「……しかし……」
さすがに世子が一晩中戻らないとなると大問題だ。
「悪いがまた知らせに行ってくれ」
「わかりました」
「何をコソコソしてるんですか?」
サムノムが2人に手ぬぐいを差し出しながら聞くと、揃って「なんでもない」と手ぬぐいを受け取った。

ビョンヨンがそっと部屋を抜け出し、ヨンとサムノムは2人きりになった。
ヨンが濡れた服を手ぬぐいで拭いているとカっと外が明るく光り、窓に目を向けるとドォン! と雷鳴が轟く。
「ひゃー、近い」
サムノムが呟く。
ヨンはロウソクの灯りに照らされたサムノムの横顔を見つめた。
-黙っていれば……-
その後の言葉にかぶりを振る。
「いや、男だろあいつは!」
”綺麗“と続けそうになって慌てた。
「なんですか?」
ヨンの呟きにサムノムが聞き返す。
「なんでもない、それより今日は私もここに泊まるぞ」
「は?! 泊まるって、布団はひとつしかありませんよ?!」
「仕方ない、我慢してやる」
「“我慢してやる”?! そりゃこっちの台詞ですよ!」
「しょうがないだろ、この雨の中外に出るのは御免だ」
「だからって…なら別監様と一緒に寝れば…って、あの人布団使ってないや……」
いつも天井の梁で寝ているビョンヨン。
「何か問題でもあるのか?」
「あ…ありませんけど…布団小さいんで……」
「一晩くらいどうにでもなるだろ」
どうあっても泊まるき満々だ。
こうなりゃ腹を括るしかない。
「わかりましたよ! ったくワガママなんだから」
「何か言ったか」
「別に!」
サムノムが布団を敷き始める。
「ホントに小さいな」
思ったよりも小さかった。
いつもは大きな寝台で絹の布団で寝ているヨンにとって綿の布団は初体験だ。
「それにゴワゴワだ」
布団をポンポンと叩く
「……もしかして、いつも絹の布団だったりします?」
「………」
“当たり前だろ”という顔でサムノムを見るとサムノムは口をへの字に曲げた。
「なんだ、その顔は」
「いーえー別に!」
サムノムは上掛けをめくった。
「どうぞ! 枕も特別に貸してあげます」
ヨンは布団に横になる。
「枕が固い」そう言うと「文句ばっかり言わないの!」とサムノムはヨンのおでこをペシっとはたいた。
「お前…!」
半身を起こして抗議しようとするとサムノムもヨンの横に入ってきた。
「……」
腕をついて半身を起こしたまま思わずサムノムをじっと見る。
お互い誰かの横で寝るのは久しぶりだった。
サムノムは布団の端ギリギリまで寄って向こうを向く。
「……なんだ、そのあからさまな態度は」
ヨンはムッとする。
サムノムは向こうを向いたまま顔だけヨンに向けた。
「そりゃ私だって隣に美しい女人が寝ているなら喜んで胸でも腕でも貸しますけどね、寝てるのがこんなむさ苦しい男ときた日にゃあ…」
サムノムはやれやれと溜息をつく。
「む、むさ苦しい?! この私をつかまえて言うに事欠いてむさ苦しいだと?!」
-巷では美男子で有名な“世子様”だぞ?!!-
「あ、花若様いくら私がそこいらの女人よりも美しく愛らしいからって間違っても変な気は起こさないでくださいよ?」
「誰が起こすか!!」
ヨンは目を剥いた。
「それならよかった、お休みなさ~い」
「ったく!!」
ドカッと枕に頭を置く。
“そこいらの女人よりも美しく愛らしい”
そこを否定できないのが悔しい。

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