雲が描いた月明かり 虹

餌付けをされているのは誰?

3人はひとしきり笑う。
しかしヨンはふっと笑いを引っ込めた。
「……で、お前はいつまでそいつを抱いてるつもりだ?」
言われてビョンヨンは腕の中のサムノムを見る。
サムノムはビョンヨンの体に腕を回してギューッと抱きしめた。
「!」
ビョンヨンはビックリしてサムノムの首に回していた腕を外す。
「男の嫉妬はみっともない」
サムノムがイーっと歯を剥いた。
「だ、誰が嫉妬などするか!」
「別監様を私に取られるのが怖いんですよ、きっと」
そう言うサムノムに
-あ、そっち?-
ヨンとビョンヨンは同時に同じ事を考えていた。
「あー、笑ったらお腹空いた」
ビョンヨンから離れてサムノムは伸びをする。
「お前、髪ボサボサだぞ」
ヨンが指摘すると
「誰のせいだと思ってんですか」
サムノムが睨む。
「わ、私のせいだとでも言うのか?!」
抱きしめて寝ていたのがバレているのかと、思いっきり動揺する。
「上掛け被せて閉じ込めたくせに!」
-なんだ、その事か……-
ホッと息をつく。
「まったく」
サムノムは髪をほどいた。
サラサラと美しい黒髪がサムノムの小さな背中を覆う。
「?!」
ヨンとビョンヨンは髪を下ろしたサムノムに息をのんだ。
-なんだこのムダな色っぽさは!-
しかしヨンはどこか既視感を覚えた。
どこかで見たことがあるような気がするが、思い出せない。
サムノムはすぐさま髪をかき上げ結い直した。
「髪って自分で結うのか?」
ヨンのお坊ちゃま発言にサムノムは「…うーわ……」と
思いっきり呆れた声をだした。
「……………」
ヨンは自分でもバカな事を言った自覚はあったので
甘んじてそれを受ける。
サムノムは頭をふりふり外に出た。
2人のやり取りが面白すぎると俯いて笑いを堪えるビョンヨンだった。

サムノムは顔を洗って口をゆすぎ、石を積んだお手製の竈に火を入れた。
後をついてきたヨンは
「何をする気だ?」
「昨日の残り物を調理するんです」
「調理?」
ヨンは料理をするところなど見たことがないので興味津々だ。
ビョンヨンが桶に水と手拭いを持ってきた。
「これを」
ヨンはそれで手早く顔を洗って口をゆすいだ。
「犬ころが料理するそうだ」
楽しげに言うヨンにビョンヨンはため息をついた。
「この竈、ほとんど私が作りました」
ヨンが眉を上げて笑う。
「お前が手を貸すとはな」
その間にもサムノムは昨日の残りのおかずや鶏肉を細かく刻んでいく。
そして巾着の中から卵を3個取り出した。
「それは?」ビョンヨンが聞くと「昨日、領議政様の山鶏を捕りに行ったときにくすねておきました(笑)」
「でかした!」
ヨンが満足げに頷く。
竈の上に鉄鍋を置いて鶏の皮で油を引くと溶いた卵を一気に流し込んだ。
ジュワッと音を立てて卵が膨らむ。
「おお!」
ヨンが歓声を上げた。
なんか、かわいいなぁと思いながらサムノムはそこに昨日の残りの冷や飯を入れ木べらでほぐし、塩を振って炒め細かく刻んだおかずや鶏肉を入れ、リズムよく混ぜ合わせた。
「よーし、完成!」
3人分を器に取り分け、匙と一緒に2人に渡す。
毒味無しの出来たてを食べるなど生まれて初めてかもしれない。
「いただきます!」
サムノムが手を合わせたのを見てヨンも真似をしてみた。
「いただきます?」
”うんうん“とサムノムは嬉しそうに頷いた。
ビョンヨンも少し笑ってそんなヨンを見る。

ヨンは熱々の焼き飯を口に入れた。
「あっち!」
口の中でほふほふと熱を逃がす。
「火傷しないように気を付けて下さいよ、花若様」
サムノムとビョンヨンは匙の上でふうふうと息を吹きかけ少し冷まして食べている。
ヨンは出来たてはこんなに熱いのかと感動した。
そしてなにより夕べの残り物とはとても思えないくらい美味かった。
今まで食べてきた中で1番かもしれない。
ー夕べの料理も美味かったが、あれもこいつが作った物だったのかー
ヨンは夢中で食べた。
「おいしいでしょー♪」
サムノムはそんなヨンを見て嬉しそうに笑った。
ヨンは素直に頷き、瞬く間に平らげる。
サムノムは自分の焼き飯の半分を分けてやった。
「どんだけお腹空いてんですか(笑)」
夕べは“私は空腹を知らない”とか言ってたのに
「こいつが作る物は大抵旨いですよ」
ビョンヨンが小声で呟く。
「…お前、他にも食べた事があるのか?」
「何故か私の分も用意するので…」
なんて羨ましい。
「ビョンヨン、お前餌付けされてるんじゃないか?」
「?!」
今気付いたという顔でヨンを見る。
「するわけないでしょ」
サムノムが2人にお茶を淹れながらツッコんだ。
「食事なんて物は誰かと食べるからおいしいんです」
「誰かと…」
ヨンは自分の食事風景を思い出し、表情を固くする。
いつも独りで、毒味で冷め切った料理。
美味しい訳がない。


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