Rhapsody in Love ~幸せの在処~

第2章 幸せの在処 /1 高校入試と免許証

 年に一度、この数日間は、学校が独特の緊張感に包まれる。

 みのりも研修用のダークグレーのスーツに身を包み、きりっと引き締まった表情で体育館へと向かった。体育館には、大勢の中学生がすでに集まっている。みのりたち高校の教員が体育館に入ってくると、低いざわめきが収まりシーンと静まり返った。

 次年度の入学者選抜の学力検査、いわゆる高校入試は5教科の学力検査が2日間かけてあり、3日目は採点と合格者の判定が行われる。
 地域の名門吉田高校は、この学区内の中学生がまず目指す高校で、中学生たちはここに入学するために一生懸命勉強をしてきたはずだ。
 受験する者も真剣なら、高校の職員の方も守秘義務が伴い失敗が許されない作業の続く緊張する3日間だ。

 みのりは受験番号と教室番号の書かれたプラカードを持って、生徒たちの列の前に立った。これから生徒たちを教室まで誘導する。いろんな中学校から来たさまざまな制服を着た生徒たちが、神妙な顔つきでみのりの後から付いてくる。生徒への支持は一括して放送によってなされるので、みのりの仕事は、確実に生徒を試験会場へと入れることだ。隣の教室の誘導係と確認し合って、ひとまず一仕事が終わってホッとする。

 数日前の麗らかさとは打って変わって、この日はどんよりと曇ってうすら寒かった。階段の降り口の連絡係の待機する机のところには、ストーブが設置されてオレンジ色の暖かい光を放っていた。戻った職員室は、いつもと違って静かで、やはり緊張感が漂っている。何か他のことをするにも身に入らず、お茶を飲みながら、ただ自分の出番が来るのを待っていた。

 みのりが試験監督をするのは、2科目目だ。問題を配布するのを手伝ってくれる若い男性講師とともに担当の教室へと向かう。しかし、この男性講師が使えない人間で、問題用紙も解答用紙もほとんどみのりが配ってしまった。男性講師が解答用紙を配った2・3列も数を間違えていて、みのりがその対応に追われる始末。

 思わずみのりは、この男性講師よりもずっと年若い遼太郎の機転と要領のよさを、思い出さずにはいられなかった。逆に、遼太郎が年齢に似つかわしくないと、言えるのかもしれないが…。

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