Rhapsody in Love ~幸せの在処~

第2章 幸せの在処 /9 ライブの夜

 
 

 薄暗いその空間に足を踏み入れるとき、遼太郎の心臓は緊張のあまりドキドキと鼓動を打った。

「ドリンク、ワンオーダー制となっております。」

 バーにいたお姉さんからそう言われて、遼太郎はあたふたと財布を取り出して、アルコール…ではなくコーラを注文した。そのコーラを片手に、遼太郎がきょろきょろと辺りを見回していると、樫原の声が後ろから響く。

「狩野くん。こっちこっち!遅かったね。もうすぐ始まっちゃうよ。」

 樫原はテーブル席の一つを占有して、きちんと遼太郎の分の席も確保してくれていた。

「いや…、下北沢に来るのって初めてだったから、駅からここまで、ちょっと…どころか、かなり迷ってしまって。」

 下北沢どころか、遼太郎にとってライブハウスに来ること自体、初めての体験だ。

「確かに、ここってちょっと分かりにくいかもね。どこかで落ち合って、一緒に来ればよかったね。」

 ニッコリ笑う樫原の表情は、相変わらず屈託がなく、まるで少女のようだ。
 出会った当初は、この樫原の女の子っぽい仕草にいちいちゾワゾワしていた遼太郎だったが、最近ではずいぶん慣れ、普通に会話が出来るようになってきた。

 遼太郎はひとまず落ち着いて、コーラをごくごくと口に注いだ。
 駅からここを捜し当てるまで、優に30分は歩いている。夕方とはいえ、まだ強い日射しを降り注ぐ夏の太陽に照り付けられ、遼太郎の喉はカラカラだった。

 樫原は上下に動く遼太郎の喉仏をうっとりと眺めていたが、その向こうのフロアにいる数人の女の子に気が付いて手を振った。
 遼太郎も振り返って、樫原の視線の先を確かめる。

 
 

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