Rhapsody in Love ~幸せの在処~

第2章 幸せの在処 /10 会いたい気持ち つらい決意




 見上げた校舎は、あまりの陽射しの強さと熱気に揺らいで見えた。

 8月の今の時期は、夏休みの補習もなく、生徒の姿も部活生以外はほとんど見かけない。騒がしい生徒たちの代わりに、けたたましい蝉の声が辺りを取り巻いていた。

 毎日通っていた学校なのに、知らない人の家に足を踏み入れるような感覚だ。
 遼太郎は校舎に向かうことなく、校門の前の道を渡った第2グラウンドから、職員室の窓を見つめた。

 
――…あそこに、先生がいるかもしれない……。


 そう思うだけで、体が震えてくる。

 毎日想わない日はないほど、遼太郎の一部になっている人。思い描くその姿は、いつも微笑んで遼太郎を見守ってくれている。芯は強いけれども、とても可憐で、思いがけないところでドンくさい、愛しくてたまらない人だ。
 心はいつも、「先生に会いたい!」と叫び続けている。

 しかし、遼太郎はもう何日も、部活の手伝いで学校へ来ていたけれども、みのりに会いに行かなかった。

 会いに行っても、きっとみのりを困らせる。いつも懸命に働いているみのりの邪魔をしたくない。
 …それよりも、あの別れから、やっとの思いで立ち直った自分の均衡が、またみのりに突き放されて再び崩れてしまうのも怖かった。


「狩野。毎日来てくれて、ありがとな。助かるよ。」

江口から声をかけられて、遼太郎は振り向いた。

「いえ、体が鈍ってたんで、ちょうどいいです。」

「日が落ちてから全体練習をするんだが、今日は1年生は別メニューで、基礎練習を見てやってくれるか?」

「分かりました。」


 第2グラウンドに向かうと、気持ちが幾分落ち着くのが分かる。
ここでこうやってラグビーボールに触れていると、自分の中心に潜在している硬くて冷たいものさえ、いつの間にか意識しないですんでいた。




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