Rhapsody in Love ~幸せの在処~

第2章 幸せの在処 /6 あなたのためにできること

 
 
「次に勤務する学校は、農業高校だから、ちょっとのんびりできそうよ。」

 離任式の朝、職員トイレで一緒になった澄子に、みのりはそう話しかけられた。

「そうか、実業系の高校だと、五教科の教員はどっちかと言えば蚊帳の外よね。でもその分、余裕をもって生徒一人一人とじっくり向き合えそう。それに、農業なんて、違う世界が覗けて楽しそうだよね。」

 みのりは、課題のチェックや考査などの業務に忙殺される毎日を思い起こして、そういう吉田高校の毎日から解放される澄子が少し羨ましかった。

「うん、そうだね。でも、吉田どころじゃない、すごい田舎よ。」
「だけど、素朴でいい子も多そうだし。」

 ニッコリ笑って澄子を送り出そうとしてくれているみのりを、澄子はじっと見つめて言葉をためた。

 澄子が言い出そうかと迷ったのは、澄子にとって“素朴でいい子”の象徴のような遼太郎のことだ。

 多分――、みのりは遼太郎から切ない胸の内を告白されているはずだと、澄子は思いを巡らせていた。それに対して、みのりはどう答えたのか…。
 みのりも遼太郎を想っているはずだけれど…。

 みのりが打ち明けてくれるのを澄子は待っていたのだが、みのりは遼太郎のことについて何も触れることはなかった。

「……何?澄ちゃん?!」

 視線に戸惑ったみのりが、澄子を覗き込む。
 澄子はやはり言い出せず、恥ずかしそうに肩をすくめて、思いとは違うことを持ち出す。

「…いや、3の1の子たち、今日は来てくれるかなぁ~って思って。」

 澄子が担任していたのは3年生なので、大学進学などで、この時期はもう吉田に残っていない子も多い。離任式をしても、名残を惜しんでくれる生徒たちがいないと寂しいものだ。

 しかし、澄子の心配を聞いたみのりがまた、ニッコリと笑った。
 その笑顔に、澄子は女ながらに見とれてしまう。


 

  • しおりをはさむ
  • 3265
  • 5140
/ 657ページ
このページを編集する