鈍色の空【完】

最終章















朝の小鳥のさえずりや、


風が木々を揺らす音。






聴こえることが当たり前すぎて、これまで当然のように流していたものに、自然と耳が傾くようになっていた。



目を閉じて、じっくりと癒して貰う時もある。



その一方で、通勤ラッシュや大通りでの人混みや電車の喧騒も、以前に増して煩く感じるようになってしまった。


久し振りにしっかりと聴く雑音だからか、それともそれだけ耳が敏感になっているせいか。


とにかくすぐに酷く疲れる。



けれどそう至るまでに、私の耳はすっかり元通りに回復していた。耳だけでなく、薬を飲まなくても眩暈を起こすこともなくなっていた。



メニエール病と診断されたあの日から、すでに半年が過ぎようとしていた。























「油断してると、また再発するわよー」




定時から1時間ほど過ぎたころ、突然背後から頭をぽんっと叩かれた。


格闘していたパソコンから視線をあげると、丸めた冊子を握った三上さんが立っていた。



「あんた昨日も遅くまで残業してたでしょ?無理すると身体によくないわよ。こっちもホント迷惑だから」


「・・・・すみません」



相変わらずはっきりと物を言う三上さん。


でも散々迷惑をかけてしまったのは事実だし、それでも休んでいる間も復帰後も、それはもうきちんとフォローしてくれた優しい先輩でもある。


もちろん三上さんだけじゃなく、社長も門倉さんもみんなそうだった。



本当に素敵な職場に巡り会えたと思う。


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