偽恋ーにせこいー  1989 中学3年生

プロローグ

 「ねぇIくん、私と付き合わない?」

ーは!?私、今何て言った!?

Iくんもびっくりして、私の事じっと見てる。

やばい!やばいよ!!どうする!?
冗談だって言っちゃう?
あぁーっ何て事言ったんだろ…

Iくんからの返事はまだ返ってこない。
ひとりで頭抱えてしゃがみ込んでしまっている。

Iくん、大丈夫。悩まなくて良いから!
゛ごめん゛って一言断ってくれたら、それで良いから。

「遊びじゃない?本気?」
しゃがんだまま、瞳ウルウルさせて真剣に聞いてくるIくん。

そんな瞳で言われたら、゛分かんない゛って言葉も言えない。
何て言ったら良いんだろうって、あれこれ頭の中フルスピードで駈け巡るんだけど、良い答えが見つからない。

そんな中、Iくんが意を決したようにスッと立ち私の正面に来て、私の瞳をじっと見つめ口を開いた。
「ー別に、良いよ。」

目が点になった。
はぁ!?マジか!?
いやいや、Iくんこそ冗談言ってる?
もう、何が何だか分からない。
゛別に゛ってどういう意味だっけ?

「本当に遊びじゃない?」
私に更に追い打ちをかけてくる。
Iくんは、もう普段のIくんに戻っているみたい。

私はまだまだ平常心には戻れそうにない。

「遊びじゃないよね?」
Iくん、畳掛けに入ってきた。

何か言わなきゃ。
さっきから、Iくんの質問に答えてない。
えっと…えっと…
「本気だよ。」
違ーう!そうじゃないでしょ!?バカーッ!!

Iくんがクシャッといつもの笑顔を私にくれた。

はぁ…そう、この笑顔だ。
つられて私も微笑み返す。

クルッと後ろを向き、さっき行こうとしていた方向に歩いて行くIくんを目で追う。

「あーあ…」
Nが、やっちまったねって顔で私を見る。

Nは幼なじみで、温和しそうな顔してるけど、性格はそんな事なくサバサバしている。

何も言うな。分かってる。私が一番分かってる。
どっかでIくんの答え分かってた。
最低だ。こんな事ばっかり。
ここんとこ落ち着いてたのにー。
何でだっけ?
何でこんな事になったんだっけ?


 ここJ中は、南北に2つの棟があり、真ん中に渡り廊下を挟んだH型の造りになっている。
北に職員室と3年の校舎、南に1年と2年の校舎の3階建て。

私が中2の夏休みに、地盤沈下が原因で、少し離れた一面田んぼに囲まれた所に新校舎が出来た。
生徒全員で、自分の机と椅子を歩いて運ばなきゃいけなくて大変だった。

体育館がいっぱいで、私が所属している女子卓球部は1年、男子卓球部は2年の多目的ホールで練習していた。


 さっきの事件?は、部活に行く途中の渡り廊下で起こった。

Nと話しながら歩いていると、1、2年の校舎から歩いてくるIくんに気づいた。

細くて、身長も160センチない位の華奢な体型。
7月の割には気持ち良い風が吹き抜けて、Iくんの真っ白いシャツが爽やかに揺れていた。
Iくんは私達に気づくとクシャッとした笑顔をした。

あぁ、やっぱりこの子の笑顔可愛いなぁ。
そう思いながらすれ違う瞬間、無性に話しかけたくなり、出た言葉があれだったー。

多目的ホールに着いた途端、Nが早く言いたくてたまらなかった様子で、みんなに報告。
「RがIくんに告って付き合う事になったよ!!」

一瞬場が静まり返り、それから一斉にみんなから声が上がる。
「とうとう1年に手出したか!」面白がる声。
「えーっ!? Iくん、可哀想…」悲痛な叫び。
「やっぱりIくん、Rが好きだったんじゃん!」
グサッ!私の後ろめたい気持ちに容赦なく突き刺す一言。

何故部員が全員Iくんを知っているかというと、ここ最近、Iくんが友達と卓球部に遊びに来ていたからだ。
1学期の前半あまり部活に出ていなかった私は、7月になってIくんの存在を知った。

「あの子達、何?」
Nとラリーしながら声かける私。

「あぁ、IくんとTくん
最近あぁやって遊びに来てるんだ。」
Iくん達の方にチラッと視線を飛ばし答える。

「ふーん。」

多目的ホールの上がり口に座って、他の部員と楽しそうにおしゃべりしている。
ーと、Iくんとバチッと目が合った。

おっと!
見つめてしまってたとオタオタする私に、Iくんがクシャッと笑いかけてきた。

うわっ!何だ?何だ、この衝撃!?

何て可愛い笑顔するんだろう。
ポッと心に温かいものが灯ったような、優しく穏やかな天使みたいな笑顔。

メチャクチャ性格良さそうなんだけど!!

それからちょくちょく話すようになった。
そして気づけば、私が一番よく話すようになっていた。

部員の中には「Iくん、R目当てじゃない。」って冷やかす子もいた。

自分でも嫌われてはいないと思っていた。
でもまさか、まさかこんな事になるとは…



 


 

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