偽恋ーにせこいー  1989 中学3年生

Iくん

 放課後までずっと話の切り出し方を考えてた。

Iくん、何て言うかな…
傷つけるかな…

重い足を引きずりながら、Iくんの教室に向かった。

教室にはIくんとTくんしか居なかった。

「あれ?部活は?」
私に気づいて、Iくんがメッチャ笑顔になった。

ズキッ。
ダメダメ。ここで逃げたらダメ!

「うん、あのね…昨日の事なんだけど…止めようか。」
目が泳いでしまう。

「…何で?」
一転してIくんから笑顔が消えた。
けど、心なし声は明るいままだ。

「うん…Iくん、彼女いるって聞いたよ?」
いきなり強気のカード切った。

「いたよ。」

小学生の付き合いって、どういうの言うんだろ?

「けど、もう終わってる、とっくに。」
Iくん、鋭い切り返し。

「あの…」
手持ちのカードが無くなった。早っ!!

「嫌だよ。」
Iくん、じっと私の目を見て真剣に言った。
瞬間また元の笑顔に戻った。

Iくんの勝ち、私の負け。
そんなゲーム感覚に陥る位、軽ーく場が流れていく。

Tくんが゛はい、お終い゛って感じで私達のゲームに割り込む。
「A.Fって妹だったんだね!」

「うん、可愛いでしょ。」
私も、これ以上は別れ話を受け入れてもらえないと諦めた。

「えーっ!?」
IくんとTくん二人口揃えて言う。

「何で?」
キョトンとして私が聞く。

姉妹なのに顔全然似てなくて、私はパパに似て濃い顔、妹はママに似て日本美人だと思う。
妹の性格がヤンキーっぽくての、この二人のリアクションなんだろうな…

「お姉さんの方が可愛いよ。」
Iくん、ニコニコして言った。

この子、Aに近いタイプなのかな…
「また、お世辞を言う。」
まさかそんな事言われるなんて思ってなかったから、びっくりしてベタな返ししか出来なかった。

「お世辞じゃないよ。」
Iくん、また私をじっと見て答える。

いや、Aとも違う。
更に上をいくチャラさなのか?
この子は今まで私の周りにいた男子と、ちょっと違う。

IくんとTくん、私が卒業してからの付き合い方とか話して盛り上がってる。
私がそこに存在しないかのように…

何か、どうでもよくなってきた。
そもそも付き合うってどういう事?
意味も分かんないで言った自分に逆ギレ。
何の為にこんなに悩んでたんだろう…

「ーじゃあ、部活行って来る…」どっと疲れた。

「いってらっしゃい!」
Iくん、ニッコリ笑顔で見送ってた。
゛夫婦か!?゛ってツッコミたくなる。

 次の日、学校から帰って来た妹が、怒涛の様にIくんの事を話してきた。
同じクラスではないんだけど、妹の親友がIくんと同じクラスでいろいろ話を聞いたらしい。

四六時中、私の話をしてるとか、昨日別れ話された時、凄く悲しかったとか(そんな風には見えなかったけど…)、6限目水泳で、私に得意の泳ぎを見せたかったとか、付き合い方とか。

「あのテンションの高さ、どうにかして。」
妹がげっそりして言った。

うーん…やっぱりよく分かんないタイプの子だ。
ただ3年の女子に告られて、はしゃいでるだけなんじゃないかな。
だと、凄く気が楽なんだけどー。

妹の顔見てたら、可笑しくなって笑ってしまった。

「Rちゃんのせいよ!!」

ーはい、ごめんなさい。


 部活終わって後片付けしてたら、Iくんも部活終わって女卓の所に来た。
「もう帰る?」Iくんが聞いてきた。

「うん…」
何でかなとも思ったけど、まぁ良いやと思い直し
「バイバイ。」
と言って帰った。

今日はNが居ないから、一人。

すると、前方にIくんが友達と女子二人と帰っているのを発見。
何か気まずいなと、そそくさと横を通り過ぎた。

Iくん、こっち方面だったんだ。
ーっていうか、私Iくんの事何も知らない。
これで付き合うなんて本当゛おままごと゛みたいよね。

家、何処なんだろうって考えながら歩いていたら、
「わっ!!」って驚かされてびっくりした。

Iくん、一人になってた。

私の前を歩いてる3年の女子を少し気にしながら、距離を離す為ゆっくりとIくんと歩いた。

「こっち方面だって知らなかったし、走って行って間違ってたら恥ずかしいから、歩く速度を速めてたんだ。」

ー私と同じ事考えてたんだ。

ほんの少しの距離だったけど、何だかホンワカムードだった。

付き合うってこういう事?
男子と二人で帰るの、凄く特別な事に感じてたけど、そんなにかしこまらなくて良いんだ。
ちょっと気持ちが楽になった。
こういう事ならやっていけるかも。
まぁ、一緒に帰るだけが゛付き合う゛じゃないだろうけど。


 水泳の授業嫌い。
中学生になって、男女別々になったのは嬉しいんだけど、更衣室はジメジメしてるし、一番のネックは髪。


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