Wedding March!【完】

第1章 /出会い

友人たちとの飲み会で、好きなだけ喚いて泣いて、飲んで食べたアタシはすっかり満足して、1人暮らしのマンションに帰った。

最寄り駅から自宅までは歩いて10分ほど。
もうすぐマンションに着く手前にあるタバコの自動販売機の前でブツブツ独り言を言っている男がいた。

明らかに不振なその様子にサッサと通り過ぎようと、少し足を速めた。

「あっ!ねぇ!おねえさんっ!」

アタシを見るなり突然声を掛けてきた男。

しかし、ここで立ち止まってはいけない。

加速していた足を、さらに速めて素早く通り過ぎようとしたが、突然腕を掴まれた。

「おねえさんってば!」


大声で叫んでやろうと、息を吸い込んだアタシに男が言った。

「50円、貸して?」

叫ぶ準備をしていたアタシは肩透かしを食らった気分でマヌケな顔のまま止まった。

「は?」

「あのね、タバコ買いたいんだけど、小銭がなくってさ。あと50円足りないんだよ。すぐに返すから貸して?」

自動販売機の明かりに照らされたその男は、人懐こそうな笑顔でアタシを見ている。

「え?」

「だからぁ~。万券しかなくてタバコが買えないの。だから、50円貸してってこと!」

ハイっと手を差し出している男。

「あそこのコンビニで買えばいいんじゃないの?」

200メートルほど後ろにあるコンビニを指差して言ったアタシ。

「あのコンビニには俺が買いたいタバコがないんだよ。この自販機にしかないの!だから、50円!」

「じゃぁ、コンビニでジュースでも買ってお金崩して買えば?」

「それじゃ、あそことここを往復しなくちゃいけないじゃん!後で絶対返すから貸して?」

今もまだアタシの手を掴んで離さない男は本気でアタシから50円を借りようとしているらしい。

しかも、見ず知らずの通りすがりの人間に、突然50円と小額ではあるもののお金を貸せという、ありえない行動に出るこの男は、それを非常識とも思っていない様子。

ふわふわした茶色い髪に、大きな目でニコニコ笑う姿は子犬を思わせる。
歳はアタシよりも若く、うちの大学の学生達と近い感じがする。

絶対返す、というがどうやって返そうというのだろうか?

新手のナンパかなにか?

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