『南十字星〈サザンクロス〉』Ⅰ 【完】

第2章 (孵化) /3話

その日の帰り、ある交差点で信号待ちをしていると、隣に私と変わらない位の背丈の初老の人が、黒いバックをぶら下げて立っていた。

「ちょっと申し訳ないんだが…」

「はい?」

「今の時間は分かりますかな?」

「えぇ」

私はポケットから携帯を取り出し時間を確認する。

「9時すぎですよ」

「あぁ。そうかありがとう。すっかり遅くなってしまった」

そう言って、額に手をやる。

「今日は冷えますね」

「そうだね。こんな時間に、気を付けてお帰んなさい」

「はい。でも、誰も私に声をかける人なんていませんけどね」

と、笑った。

「そんなことはない。私が…そうだね…あと50歳若かったら、必ず声をかけてたよ」

「50歳?!ほんとに?わぁ…」

私は目を見開いておどけて見せた。

大きなこの交差点の信号は長い。

私たちは他愛ない話をしながら信号待ちをする。



さっきから気になっていたのだが、どうも具合が悪いのか、この12月の寒空に額に汗を浮かべている。

信号は赤に変わったばかり。

しきりに手で汗を拭っているのが気になる。




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