『南十字星〈サザンクロス〉』Ⅰ 【完】

第1章《卵》 /4話

そしてコンビニに寄ってから駅まで戻り、3つある袋のうち1つを取りだし防波堤に行く。

ご飯は食べたからコンビニでは水を1本買っただけ。

要らないものは一切買わない。

本当は…チョコが食べたかったけど…



コンビニを出るときの時間は6時40分だった。

「今日は電車かな…」

そう言っていつもの駅まで切符を買う。

駅まで数分。

もう少し明るいだろう。

駅から防波堤までの道のりをゆっくり歩いた。

左手に海を見ながら真っ直ぐに延びる国道を。

どこまでも続いているように見えるこの先は…何が有るんだろう。どこまで続いているんだろう。

いつか見れる時が来るんだろうか。

ここを歩くときいつもそう思う。

私の住む街からこの海迄は、大きな国道が走っていた。

繁華街からここまでは歩くと30分。

家からはここまでは40分から45分位かかる。

今降りた駅の目の前にはこの辺でも有名な海水浴場があって、今は静かなこの駅も夏場には賑やかになるんだろう。

電車だと繁華街からも家からもこの駅までは数分で来れる。

夜中に動こうと思うと電車が走ってないから歩かなければならないけど、電車が動いている間ならすぐに移動が出来るってこと。

私にタクシーなんて選択肢は無い。

ここが一番近い駅だけど、その駅から10分も歩けばこの防波堤まで出る。

防波堤のすぐ先にはテトラポットが乱雑に積み上げられていて、さらにその先には砂浜がある。

砂浜と言っても波打ち際は岩場で、泳ぐことは出来ない。


遠目に見たら泳げそうなのに…本当は泳げない。

まるで私みたい。

見てくれだけは普通の高校生に見えるのに、中身は高校生には程遠い。

体ばかりが大きくなって…未熟な私。

人の気持ちも分からないし、優しさを貰っても上手く受け取れない。

第一…人に優しくするってことが…どうしたらいいのか分からない…

学校の人達が使う言葉すら外国の言葉の様。意味が分からない。

私は高校生にしては未完成な人間。

そんなことは自分でも分かってる。

だからそれがバレないように人を避けて過ごしてきた。ずっと昔から…

…今までの生活がバレないように。

付け焼き刃は、所詮付け焼き刃。

本物でないからいつか刃こぼれをおこす。





あの家の窓の前に立つとき、いつも見える街のはるか先を想像する。

風景の約3分の1は海が見え、まるで景色をハサミで切り取ったように見える。

夜なんてその部分は真っ黒。

「あの海まで歩いて40分ならあの目の前の大きな十字の形をしたビルまでは…」

と、なんの建物かも知らない、建物に名前が有ることも知らないその建物をいつも見下ろす。

夜にはその存在を見せつける為かと思わすようなギラギラとした光を放つ建物。

あそこにも…蠢く人間模様が必ず存在する。




そこには…ちゃんとした私も存在して…

と、想像するのが私の楽しみ。

想像の世界の私は回りの人達と何ら代わりがない…今時の高校生。

他の人と馴染んでる。混じりあってる。

違和感無く。

当たり前の1人の高校生として…。



目立つこと無く…違和感無く溶け込んでみたい。




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