騎士~KNIGHT~ [完] 

第1章 /3話








「蘭…」

お鍋を見ながら丁度リビングに入ってきた蘭に声をかけた。

蘭の視線がこっちを見る。

「お塩がないの。無くなっちゃった。買ってくるからこれ見てて。何もしなくていいから」

「…切って行け」

「ダメよ。まだ中まで火が通ってないから切らないで。直ぐに帰って来るから」

「…」

そう言ってエプロンをとって玄関に向かう。

そして申し訳なさそうに…じっと顔を見上げ

「あ…あの、蘭?」

「何」

「あの…」

蘭は私の顔を見て直ぐに部屋に入って行ってから戻ってきた。

「…ごめんなさい」

「…」

黙ったまま手を差し出す蘭の手からそれを受け取ろうとして一瞬怯んだ。

私の目の前には一万円札が差し出されていたから。




「お塩…200円も有ったら買える…」

と言うと蘭は

「無い。これを持っていけ」

と言って私が受けとるまで手を差し出したまま動かない。

「…分かった…ありがとう」

それを受けとり、自分の財布に入れた。

その時に見えた私の財布の中の残金は52円。

全く自分のお金を使わない生活をしてるとは言え、200円の物を買いに行くのにも蘭から貰って行かなきゃならないのはちょっと情けない気分になった。





でも仕方ない。

私は養ってもらってる身なんだから…

そして、玄関を出た。

いつもは蘭と出掛けるけど、一人で出掛けるようになってこれで数回目。

まだ外は明るいし、変な者に絡まれることも無いだろう。




外は夕方にも関わらず夏特有のムッとした空気が容赦なく私を出迎えた。

「暑…」





ここに来て1ヶ月弱。

ようやく体の調子も戻ってきて生活にも慣れてきた。

…前よりも少し痩せた体に鞭打って目の前のアスファルトに足を踏み出した。





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