騎士~KNIGHT~ [完] 

第1章 /7話

「行くぞ」

「はーい」

普通に出掛けるかのように家を出た私たち。

実は今日が引っ越しの日。

そんな感じは微塵もない。







大きなバッグに着替えの服や、ドライヤーまで詰め込んで、引きずる様にリビングに出てきた私を呆れた目で見た蘭。

「何も要らないって言っただろ。置いてこい」

「え!要るでしょ?」

「要らない」

「要る!」

「一泊だけだぞ?」

「1泊でも着替えは要るし」

「なら必要なものだけにしろ」

「これ」

「おい」

「必要なの!」





蘭は私の手から鞄を奪うと他の引っ越しの荷物の所に一緒に置いた。

「待って!本当に要るの」

「買ってやる」

「え?」

「要るものは全て買ってやる。他に買えないものが有るならそれだけを持っていけ」

そう言うと、鞄を差し出してきた。

「…ない」

「…」

「別にそこまで拘ってるものは無いけど…」

「ならいいだろ」

そう言って私の手を引いて玄関に向かう。

「でも…」

「何」

「お金…使わせちゃう」

「お前1人いくら豪遊させたとしても、それごときで路頭に迷う様なことにはならないから心配するな」

「え?」

「行くぞ」





結局何も分からない状態のまま、私は手荷物1つ持つことなく近所に散歩に行くように、2度と帰らないこのマンションを出た。

バッグすら、財布すら持たずに…。



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