エデン【完】

Chapter.1




夏の夜に隣の部屋から匂ってくるその香りに、あたしは嫌って程の嫌悪感を抱いていた。


それはあたしにとって、幼い記憶を疼かせるのには十分で、上書きもされない何も無い夜の静寂を熱く切り刻んだ。



何も無い―――…ライトも点いていない天井に見下ろされる気分はどうも憂鬱で仕方がない。

虚無感に襲われ、やるせない気持ちに襲われ、最後にやってくるのは睡魔という魔物。


眠くなればそのまま寝れるからまだ良いものの、眠気も来ないような寝れない日は最悪の一言に尽きる。


だからあたしは、もう目覚めないように深く深く瞼の先にある暗闇に果てしなく縋るのだ。


明日なんて来なければ良いのに――…そう何度願っても繰り返される太陽の出現に、何度自分を諦めただろう。


だからといって、あたしには簡単に人生を棒に振る事は出来ない。

自ら命を絶つ、なんて…そう簡単にできない。


きっとあたしはいつまで経ってもこの苦しみから逃れられる事は出来ないんだと思う。



「……起きなきゃ、」


人生を死ぬまで真っ当しなくてはならない事にまたやるせなさを感じつつ、あたしは泣く泣く身体を起こした。


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