カラスの瞳に映るもの

第一章 /初対面


「ねぇー、お腹減ったぁー!」


いつものように近くのスーパーで買い足した食材を深空の家の冷蔵庫に詰め込み終えてリビングに行くと、大きな声でそんな報告をしてきた。


「うっさいわね、深空が帰ってくるまで我慢なさい!」



黒いソファーに自分の家のように怠惰に寝転がっている、薄浅葱色の前髪で見えるか見えないかの狭間を彷徨っているタレ目の男を叱りつける。



「うへぇー、深空早くぅー!」



未だに開く気配のない玄関に向かって情けない声を出す翠。



「にしても変ね、今日は一日中寝るって今日の入学式もすっぽかしてたのに」



と、床に落ちていたシャツを拾い上げ近くの椅子に掛けてやりながら首を傾げる。



「ふぅーん?」


さっきまであんなに騒いでいたくせに、今度は興味無さげに雑誌をペラペラと捲ってやがった。


おい。


「ほんっと、マイペースなんだから」


自分の好きなことをやってる翠に倣って、あたしも深空が帰るまでゆっくりしてようと向かいのソファーに座りスマホを開けていると、



「桔梗ぉ、なにか悩んでるでしょぉ」


いつの間にかあたしの方を見ていた翠に軽く目を見開く。


「…よく、分かったわね」


そうだった。


コイツ、人のこと見てないようでよく見てるんだったわ。



「そんなのこの翠様にかかればお茶の子さいさいだよぉ」



ニマニマと笑いながら軽口を叩く。



「…梅ちゃんからの連絡が最近ないのよ。あの子、毎日欠かさず連絡くれるのに」



手元にあるスマホに視線を落としてそう言えば「梅ちゃんって誰だっけぇ?」と、返ってきた。



そんな翠に思わず呆れてしまったのは仕方ないわよね?



「竹島 小梅ちゃん。ほら、おかっぱ頭の小さい女の子」



そこまで説明すれば。「あの子かぁ。確か桔梗の信者だったよねぇ」と、思い出したらしい。



なんとも失礼な覚え方だけど、翠にとっては自分の懐に入れた人以外は名前からして適当にしか扱わないのが普通だからなんとも言えない。



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