地球のありとあらゆる資材を喰いつくした人間は、地球を離れ、今は火星で暮らしている。

しかし全人類が火星へと飛び立った訳では無い。

DNA検査をして、より優れた遺伝子を持つ者だけが火星へと移動していった。

残された劣勢遺伝子を持つ人間達は地球に残り、わずかな資源を食いつぶしながら生きている。

そんな時代。

一組の双子が生まれた。

片方の男の子は優秀な遺伝子を持ち、火星へと旅断つ切符を手にした。

金髪に緑の瞳。

誰もが溜息をつくような容姿に未来の彼の姿を想像する。

一方、もう一人は劣性遺伝子の方塊のような存在で、頬にはあばたが出来、一重で腫れぼったい瞳をしている。誰もが呆れた眼差しを向けた。

不倫を母親は疑われた。

父親は優秀な遺伝子を持つ科学者で金髪に緑の瞳だ。一方その妻は劣性遺伝子を持った子供同様、黒髪に黒い瞳をしていた。

「お前とは離婚だ。こんな劣性遺伝子の塊、私の子供とは認めない」

そう言って、妻共々子供を地球へと残し、火星へと旅って行った。


それから数十年の時が経ち。


今度は火星の資源が尽きようとしていた。一方地球では新しい資源が見つかり、豊かになっていた。

今度はDNA検査をして地球へ帰還する人が増えてきた。

男は同じ容姿を持つ子供を抱えながら、離婚した妻を頼って、地球へと降り立っていた。

しかしターミナルでは妻の姿は無かった。慌てて広範囲電波受信器を取り出すと、妻の電話にかけた。

「もしもし?」

懐かしい妻の声だ。男は安堵して電波通信が届かなかっただけなのだと思った。

「私だ。家族4人、また一緒に暮らそう」

しばしの沈黙。

それから高笑いの声。

妻は言った。

「私再婚したの。もうあなたとは関係無いわ」

「地球に放り出されて息子と生きろというのか?」

「当たり前じゃない。オズ、貴方を捨てたパパよ」

ザザザと電波が乱れる音がして、もしもしという子供の声が聞こえて来る。

「初めまして。君のパパだよ。オズって名前なんだね? 奇遇な事だ。お前の兄さんはドロシーという名前なんだよ」

しばらくの沈黙。

それから出た言葉は「で?」だった。

「僕を捨てたパパが何の用? パパは火星が大好きなんでしょう? だったら火星で暮らせば良いじゃ無いか」

頭から冷水を浴びせられる。

その言葉がぴったりの状況だった。

オズはさらに畳みかけるように言う。

「ドロシー兄さん? だっけ? 僕には妹のアリスが居るから他に兄弟は要らない。アリスは僕と同じ黒髪なんだ。とっても艶々していて綺麗だよ」

「オズの義父妹かな? 今度食事に行かないか? 私も見てみたい」

「嫌だよ。パパは何でも屋のパパだけだ。お前なんか火星に帰れ」

ぷつっと電波が切られ、無音になる。夫は茫然としながら、近くで困った顔をしている息子にひきつりながら笑みを浮かべる。

「大丈夫。パパの顔を見れば、すぐに家族になるよ。なんたってパパとドロシーは優秀な遺伝子を持つ人間なのだから」

こくんとドロシーは頷き、夫は妻の家へと向かう事にした。


「なんだ、ここは……?」


音声地図に案内されて辿りついたのは、立派な屋敷だった。かつて自分が住んでいた住まいよりも大きい。夫は呼び鈴を鳴らした。

「もしもし、パパだよ。オズ、妻、出て来てくれ」

するどガラガラとドアが開き自動人形家政婦が出て来た。そして一枚の紙を渡すと頭を下げ、屋敷へと戻っていく。

そこには金輪際ここには来るなという走り書きのメモだった。夫は膝を付くとドロシーを抱きしめた。

「なんて愚かな人だ。こんな優秀な遺伝子が戻って来たというのに、追い返すなんて! 頭がオカシイ」

『オカシイとは何ですか』

監視カメラのスピーカーから漏れ出したのは妻の声。夫は膝を付いたまま、妻に懇願する。

「優秀な遺伝子を持つ僕なんかより、劣勢遺伝子の男を選ぶのか!? そんなの間違っている!」

マイクからはぁという溜息が聞こえた。そして衣擦れの音がして、妻は子供に諭すような口調で言う。

「私の今の夫も優秀遺伝子よ。火星に行かないで、私みたいに捨てられた劣勢遺伝子を助ける何でも屋をしているの。だから劣勢遺伝子なんていないのよ。オズも優秀遺伝子に組み替える手術もしたわ。もちろん、私も。だからこの家に劣勢遺伝子の人間は住んでいないわ」

ぶつりと音声が切れて、また扉がガラガラと開く。今度は警備員型ロボットで、拳銃が握られていた。

『去りなさい。10秒後に発砲する』

夫は慌ててドロシーをひっ掴むと妻の家を後にした。


その後。


夫は火星に戻り、貧困に苦しんだという。

一方妻は、子供と4人で幸せに暮らした。