狼の花園〈完〉【修正版】

姫の居場所 /秘められた過去



それから暫くして、花音は目を覚ました。

そこはどうやら湯殿のようで、
花音は、鈴蘭の打ち掛けに身を包んだまま、壁に寄り掛かるように座らされていた。

身体は重く、気だるい。
それに疼くような痛みがあった。


(…ここは…どこ…?)


恐る恐る目を開け、周囲を見回す。

すると立ち込める湯気の中に人影を見つけ、花音は身体を強張らせた。


「だ、誰…!?」


打ち掛けの襟元を強く握り、震える声で尋ねると、その人影は、ゆっくりと花音に近付いて跪く。

湯気の中から現れたのは、色白で、睫毛の長い、ハッキリとした二重の瞳の男だった。


「怖がらせてしまった?
…化粧をしていないから分からないかもしれないけれど、鈴蘭よ。

そして、ここは宿の湯殿。もう誰も あなたを苦しめたりしないから安心して。」


「…あ…鈴蘭…さん…。」


目の前にいる男が鈴蘭だと認識して、花音は一息ついたが、自分の身に起きた事を思い出し、自分の震える肩を抱く。


「…私……私…は…!」


(自分の身体を、あんな…知らない人達に好き勝手されてしまった…。

…自分の身体なのに…!)


「…っ…うぅっ…!」


そんな想いが、言葉にならずに涙として溢れ出る。


「…姫…。」


髪を高い位置で一つに束ね、藍色の着物を着た鈴蘭は眉を寄せ、沈痛な面持ちで花音を見つめた。

その腕を掴み、花音は泣き叫ぶ。


「鈴蘭さん…!私、もう駄目…!私の身体は穢れちゃった…!!
生きていけない…!…死にたい…!私を殺して!!殺して…!」


その言葉に、鈴蘭は小さく溜め息をついた。
それから一歩 花音に近付き、その細い首に手を伸ばす。


「…あなたが そう望むなら…。」


小さな声で呟いて、細長い指に力を込めた鈴蘭は、花音の首を思いっきり絞めた。


「うっ!…あ……!」


一気に呼吸が阻害されて息苦しくなり、花音の頭は、靄が掛かったかのように朦朧とする。


「……く…っ!」


(…苦しい…!)


花音は反射的に空気を求めて手を動かし、鈴蘭の手を退かそうとした。


「……っぁ…!」


抵抗する花音の手が、やがて力を失い、動きを止める。


(…私…ここで…死…ぬの…?)

 

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