狼の花園〈完〉【修正版】

姫の居場所 /悪夢と花



その夜。

花音は自分の部屋で一人、ぼんやりと蝋燭に灯る火を見つめていた。

火が揺れる度に、花音の心が不安で揺れる。


(…灯りが消えるのが怖い…。
消えてしまったら、暗闇になってしまったら…!)


背筋に寒気が走った。肩を抱き、布団の上で背を丸める。


(暗闇になったら…、目を閉じたら…、あのときの事が…勝手に甦ってくる…!)


小屋の中で自分を取り囲む、男達の冷たい視線。まるで道具か奴隷に対するような、人を見下す彼らの態度。

思い出したくないのに、脳に焼き付いた記憶が、自分の意思に反して甦る。


(…嫌っ…!お願い、消えて…!)


肩を震わせ、花音は俯いた。

その肩に、誰かの手が触れる。


「…っ!」


ハッとして花音が顔を上げると、そこには鈴蘭がいた。


「勝手に入って御免なさい。
もし眠っていたら、悪いと思って…。

…でも、眠っていなかったようね。」


鈴蘭に全てを見透かされそうで、花音は思わず顔を逸らした。


(…余計な心配させたくない…!)


そんな花音に寄り添うように、鈴蘭は隣に腰を下ろし、言う。


「…思い出して眠れないのね?」


「っ!?」


言い当てられ、花音は目を丸くする。

鈴蘭は花音の正面に回り込み、その頬に触れた。
驚き、花音はビクッと身体を震わせる。

それを見て、鈴蘭は目を伏せた。


「…御免なさい。」


「え…?どうして鈴蘭さんが謝るんですか?」


花音が尋ねると、鈴蘭は眉を寄せて答える。


「私、分かっていたの。…辛い記憶は、そう簡単に忘れられないって事。

…私も…そうだったから。」


「………。」


黙り込み、花音は俯いた。


(…そっか…鈴蘭さんも…。)


昨夜聞いた昔話を思い出し、胸がキュッと苦しくなる。

そんな中、鈴蘭は簪を外し、結い上げた髪を解いた。
それから すぐに、


「…え…?…あ…っ!」


突然の事に戸惑う花音を、布団に押し倒す。


「す、鈴蘭…さん…?」


動揺して、花音の瞳が揺れる。
鈴蘭は そんな花音を真っ直ぐ見つめ、低い男の声で言った。


「…だからこそ、この一時だけでも忘れさせてやる。」


「…!」

 

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