狼の花園〈完〉【修正版】

大変な一日 /安心直後の想定外



霞の案内で、花音は座敷の奥の広間にいた。

先程までいた六畳一間の部屋と比べ、広間は倍の広さがあり、金の屏風が置かれている。

花音は その屏風の前に座らされていた。
目線を落とすように言われ、顔は上げられない。

右隣に座る霞の他には、巫女のような装束の人がいるだけ。

左隣に、金糸の刺繍が入った高級そうな座布団が置かれているが、殿様らしき人物は いない。



(一体、殿様は どんな人なんだろう…?)


一分一秒が、とても長く感じられる。

この部屋に入る前、夕暮れ時だったのか、オレンジ色の光が廊下に射し込んでいた。

今頃、太陽は地平線の下だろう。


(…早く殿様に来て欲しいような、来て欲しくないような…。)


複雑な心境の花音は、待つのに疲れ、畳の縁の模様を数え始めた。

すると襖の開く音がして、霞と巫女が深々と頭を下げる。
慌てて花音も頭を下げた。

足音が近付いてきて、花音の側で止まる。
そのまま黙って隣に座った。


(…この人が…殿様…?)


こっそり視線を横に向けたが、黒い着物が見えただけで、顔を見る事が出来ない。


(もう…ちょっと…!)


姿勢を戻した花音が、なんとかバレないように殿の顔を見ようとしていると、霞が言う。


「それでは、婚礼の儀を始めます。」


それを聞いた花音の顔が強張った。

巫女が盃を殿に渡し、酒を3回に分けて注ぎ入れる。殿はそれを3回傾けて飲み干した。

その盃が、巫女を介して花音に渡される。

おそるおそる受け取った花音は思った。


(こ、これってもしかして、三三九度ってやつ?っていうか、これって間接キス!?

いやいや その前に、私 未成年者っ!)


花音が戸惑っている間に、巫女は先程と同じように酒を注ぐ。

霞が耳元で囁いた。


「最初の二回は傾けるだけで、三回目に飲み干して下さい。」


(そ、そう言われても、私は お酒なんて飲めないよ!
…飲めないって言おうかな…。)


そう思った花音は様子を窺ったが、部屋の空気が なんだかピリピリしていて、心が折れる。


(…うわ、無理!絶対言えない…!)


花音は覚悟を決めて喉を鳴らし、盃を傾けた。

言われた通りに、3回傾けて飲む。


「~~~っ…!」

 

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