狼の花園〈完〉【修正版】

仲間として /大胆不敵



それから殿は首領の邸に向かった。

首領の邸といっても、農村にあるような茅葺き屋根の、少し大きな家だ。

盛り土により他の家より高く造られている。

先手を打ったとはいえ、首領を説得出来なければ、反乱と見なされて戦闘になりかねない。

腕の確かな忍の男達が邸の入口を囲み、怪我をしている者は少し離れた場所で様子を窺う。

花音も同行したが、竜胆と共に離れた場所にいた。

殿は霞と共に邸の入口に立つ。
その後ろには、怯えた表情の与市。


「ほ、本当に大丈夫なんですか!?
いきなり斬られるとか、絶対嫌ですよ?」


「さぁな。…その時は一緒に斬られてやるよ。」


与市の問いに、ニヤリと笑って答える殿。その横に立つ霞の表情は固い。

そんな3人の目の前で、木戸が開いた。


「…おや、随分と遅かったですね。待ちくたびれましたよ。」


中から出てきたのは鈴蘭だった。真っ赤な唇で妖艶に微笑む。


「少々手荒でしたが、私の方は片付きました。
…はい、これ。」


軽い口調でそう言った鈴蘭が、側にいた与市に渡したのは、
ぐったりとした首領…つまり、霧沼の身体だった。


「えっ…!?」


受け取ってしまったものの、与市は身体を強張らせる。

周りにいた忍達も、見た事のないような霧沼の姿に殺気立った。


「貴様、首領に何を…!」


そんな中でも、鈴蘭は余裕の笑みを浮かべて答える。


「殺してはいないわ。
…でも、ちょっと煩かったから、これを使って黙って貰ったの。」


鈴蘭が袖口から取り出したのは、秘伝の巻物だった。

それを霞に渡した鈴蘭は、愉しそうに笑う。


「なかなか愉しかったわ。」


「…何がです?」


眉をひそめて霞が尋ねたとき、


「…う……。」


と小さく呻いて、霧沼が顔を上げた。
そのまま、目の前にいた霞の顔を、ぼんやりと見つめる。


「……?」


霧沼の様子が変な事に気付き、霞は様子を窺った。

憑き物が落ちたような…と言うべきか、
子供のような無垢な瞳で霞の顔を見た霧沼は、首を傾げて呟く。


「…あなたは…誰だ…?」


「え……。」


驚きのあまり、霞は返事が出来なかった。忍達にも動揺が拡がり、殿も目を見開いている。

クスッと笑い、鈴蘭は巻物を指で軽く叩く。
それを見た霞は、巻物に書かれている事を思い出した。

 

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