狼の花園〈完〉【修正版】

花音の居場所 /縁日の日に



枕を濡らし、殆ど眠れぬまま朝が来て、襖の向こうから雀のさえずりが聞こえてくる。

起き上がり、部屋から出ようとした花音だったが、襖の向こうから殿の声がして、開けるのを躊躇った。


(…殿様と顔を合わせられないよ…。
どんな顔したらいいのか分かんないし…。)


そう思って立ち尽くす花音の耳に、殿と清白の声が聞こえてくる。


「姫ちゃんと縁日に行く約束だったのではありませんか?」


そんな清白の言葉を聞いて、花音は思い出す。


(あ…、縁日って今日だったんだっけ…!いろいろあって忘れてた…。)


続いて殿の声がする。


「そんな約束は忘れた。
あいつが行きたいと言うのならば勝手に行かせろ。竜胆とでも一緒に行くだろう。

俺は忙しい。町に出る。」


苛立ったような殿の声の後に、足音が遠ざかってゆくのが聞こえた。
花音は拳を握り締めて俯く。


(…そうだよね…。昨日の今日だし、私と一緒になんて行きたくないよね。

私も…普段通り過ごそう。)


花音はそう決め、いつも以上に気持ちを入れて洗濯や掃除をした。

そうでなければ、不安で急に泣き出してしまいそうだったからだ。

そんな花音の姿に、
清白も竜胆も小菊も、様子を見に来た霞さえもが声を掛けるのを躊躇って立ち去る。

花音が一心不乱に洗濯や掃除を終えた時、太陽は真上を過ぎていた。


(…もうお昼くらいかな?なんか…お腹減ったとかも感じないや…。)


大きな溜め息をついた花音の元に、項垂れた小菊がやってくる。


「…ごめん…まだ殿と話せてなくて…私が提案してやった事だから、私が誤解を解かなきゃいけないのに…」


その言葉に、花音は首を振った。


「いいんです…。私が ちゃんと謝れなくて、殿様を怒らせちゃったから…」


そこへ、申し訳なさそうに竜胆がやってくる。


「姫…」


「あ…竜さん…!辻斬りは捕まえられたんですか?」


振り返った花音が尋ねると、竜胆は首を振った。


「いや、辻斬りは出たらしいんだけどよ、俺は出くわさなかった。」


「…そう…ですか…。」


その答えに花音は俯いた。


(…捕まってないんだ…。)


殿への疑惑が胸に引っ掛かったままで、もやもやする。

そんな花音に、竜胆は勢いよく土下座した。


「すまん!姫!」

 

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