狼の花園〈完〉【修正版】

花音の居場所 /ひととき



「…っ…はぁ……っ!」


翌日。
花音は息切れしながら、城下町から続く、田や畑の合間の道を歩いていた。


「……大丈夫か?」


先を歩く殿が振り返って尋ねてきたので、


「…はい…なんとか…!」


と答えたが、既に2時間以上歩いていて、足は鉛のように重く、まるで棒のようだ。

来た道を振り返ると、城の天守閣は遠く、城下町も遠い。

道の先に目を戻したが、畑や田があるだけで、目的地らしきものは見えなかった。


(…どこまで行くんだろう?まだ歩くの?
…でも、私が一緒に行くって言ったんだし…!)


そう思い、花音は気力だけで足を進める。

それに気付いた殿は足を止め、水の入った竹筒を渡す。


「少し休もう。」


「…すみません。」


謝って喉を潤す花音に、殿は少し遠くの土手を指差して言った。


「あの土手の向こうが目的地だ。もう少しだからな。」


「はい…、頑張ります…!」


そう答えて、花音は自分の足元に目を落とす。

赤い鼻緒の草履だが、左足の鼻緒だけ紺色になっている。

昨日切ってしまった鼻緒を、
今朝 殿が自分の着物の端を切って結び、直したからだ。

殿は応急処置のつもりで、店に寄って買い替える事を提案したのだが、花音は それを断った。

殿がわざわざ直してくれたので、そのまま履いていたかったからだ。

草履で長時間歩く事には慣れていなかったが、それを見ると気力が湧いてくる。

竹筒を殿に返した花音は、頬を叩いて気合いを入れた。


「すみません、もう大丈夫です…!行きましょう!」


拳を掲げた花音がそう言うと、殿は小さく笑って言う。


「分かった、行こう。…辛くなったら言えよ。」


「はい!」


頷いた花音は、殿と一緒に土手に向かって歩き出した。

土手は視界に入っていたので、近いと思っていたのだが、歩いてみても なかなか辿り着かない。

30分程歩き、やっと土手に着いた。
殿が先に土手に登り、花音に手を伸ばす。


「手を掴め。滑らないように気をつけろ。」


「あ、ありがとうございます!」


花音が殿の手を掴むと、殿は手をぐいっと引き、登るのを手助けした。

登っていくうちに、ざわざわとした人の声や、木を叩くような音が聞こえてくる。


(…なんだろ?)

 

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