狼の花園〈完〉【修正版】

花音の居場所 /忍ぶることの弱りもぞする



翌日。

竜胆は町角の茶屋で、ぼんやりと空を眺めながら座っていた。

とても綺麗な青く澄んだ空で、雲も陰りも無い。

そんな空が、今の竜胆には腹立たしかった。


「…はぁ…。」


俯いて小さな溜め息をついた竜胆に、


「あ、竜さ~ん、今日は お暇~?」


着物の胸元を着崩した女が声を掛けてくる。
竜胆は腕を組み、素っ気なく答えた。


「暇だけど、気が乗らねぇ。」


すると女は踵を返し、吐き捨てるように言う。


「あっそ。じゃ、別の人の所に行くわ。」


そんな女の背を見、竜胆は呼び止める事も無く、また空を見上げた。


(あの女に限らず、俺に寄ってくる女は皆、俺を遊び相手だとしか思ってない。

俺もそうだ。遊び相手としか思ってない。

どんな女を見ても、本気になるなんて事は無かった。無いと思ってた。

…なのに…)


そう思って目を閉じる。
そんな瞼の裏に浮かぶのは、泣いたり笑ったりする花音の姿。


(姫は…湯殿で のぼせるまで俺の話を聞いてくれた。

刺客かもしれねぇって思ってた事もあったけど、簪を突きつけたら、刀と勘違いして怯えてた。

震える手が小さくて、か弱そうだった。

それなら刺客じゃなくて、ただの能天気な奴なのかと思ってたら…それも違ってた。

時を越えて ここに来てて、不安で子供みてぇに泣いてたくせに、それを押し込めて すげぇ笑顔で笑う。

子供の為に武士に歯向かったり、霞の為に忍の里に向かったり、
誰かの為に一生懸命で、危なっかしくて…ほっとけなくて…)


目元を手で覆い、竜胆は また溜め息をついた。


(…本気で笑わせたいと思った。本気で幸せにしたいと思った。

本気で…好きになった…!

でも それは藩主の…俺の主の…!なにより…俺の友の…妻で…!)


そんなとき、


「おや?竜胆、なんだか老けました?」


笑みを浮かべた霞がやって来て、竜胆の隣に座った。
竜胆は霞の顔を見て肩を落とす。


「…同い年の奴に老けたとか言われたくねぇな。」


「ふふっ。でも子供扱いも嫌でしょう?

…姫様の事を考えていたのですか?」


霞に見事言い当てられ、竜胆は苦笑する。


「お前すげぇな。

忍の技に、心の中を覗くような術でも有るのか?」


すると霞は微笑んで言う。

 

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