狼の花園〈完〉【修正版】

花音の居場所 /闇夜の霹靂(へきれき)



花音は、城に急ぐ馬の背から振り落とされないように、霞の背にしがみつきながら殿の事を思い浮かべていた。


(城から出ろって私に言ったとき、殿様は私の目を見ようとしなかった…。

見たのは、私が…いっそ斬って下さいって言ったときだけ…。

そのときにはもう、とっくに殿様の心は決まってたんだ…!)


下唇を噛んで目を伏せる。


(前の晩に部屋に来てくれたとき、すごく険しい表情してた…!
私を城から遠ざける方法を考えてたの?

強く抱きしめてくれたのも、甘い声で名前を呼んでくれたのも、
あのキスも…別れの挨拶だったの…?

私、気付けなかった…!気付きたかった…!

きっと…苦しかった筈だもの…!)


「…お願い…無事でいて…!」


祈るように呟く花音。
その声を背に、霞は手綱を握り直す。

危険の無いように馬を走らせる為、
日が暮れても人の多い町中を避けて、少し遠回りでも人のいない川沿いを走らせていた。

少し遠くに町の灯りが見えるが、いつもより暗く、妙な静けさに包まれている。

竜胆は眉を寄せて言う。


「確か、家老って何人かいたよな?そいつら全員 敵なのか?」


それを聞いた霞は眉を寄せた。


「いえ、全員という事はないと思います。大殿の代から この藩を支えている方々ですから。

ただ、城での勤めを終えて城外の屋敷に帰った所を、浪人達に抑えられているかもしれません。

…敵ではないかもしれませんが、味方になる事を期待する事は出来ないかもしれませんね…。」


それを聞いた竜胆は目を伏せ、拳を強く握る。
それから想いを込めて呟いた。


「…俺さ、あいつが姫を追い出したって聞いて、なんでって思ったし、あんな奴 もう知らねぇ!とも思ったけどよ。

そうじゃなかったって分かって、すげぇ…嬉しかった。」


そこまで言って、竜胆は一度、ぎゅっと唇を結んだ。それから大きく息を吸って言う。


「俺、やっぱ信輝の事、好きだ!
相手がどんな大軍勢だったとしても、あいつを助けてぇ!」


その言葉に、花音も霞も強く頷いた。

やがて城に近付き、武家屋敷が近くなった所で霞は馬を止める。

霞が思っていた通り、家老や家臣の家の門前には浪人が立ち、人の出入りが無いように見張っていた。

 

0
  • しおりをはさむ
  • 1771
  • 1486
/ 772ページ
このページを編集する