狼の花園〈完〉【修正版】

雷雨の中に /帰ってきた男と…



「只今 帰りました。…なにやら一騒動あったようですね。」


クスクスと余裕の笑みを浮かべ、
ヘトヘトで声も出せない与市を引き連れた鈴蘭が帰ってきたのは、
夜が明けて間もない頃の事だった。


「戻ったか。」


玄関先で迎えた殿がそう言うと、鈴蘭は荷物を置いて言う。


「ええ。大急ぎで戻りましたよ。

…与市、何 倒れてるの?忍でしょう?しっかりなさい。」


そう言われた与市は、肩で息をしながら答える。


「…勘弁して下さいよ。夜通し走って来たんですよ?」


「えっ?夜通し?江戸から ずっとですか!?」


後ろから姿を現した花音が尋ねると、鈴蘭が微笑む。


「あら姫、久しぶりね!

…与市が大袈裟に言っているだけよ。ちゃんと途中で休んだわ。」


「休んだって…、ちょっと飯を食う時だけだったじゃないですか!」


与市は呆れつつ、口を尖らせた。
そんなやり取りを聞いていた殿が、腕を組んで聞く。


「…宿が無かった訳ではないだろう?
そんなに急いで戻る理由があったのか?」


すると鈴蘭が大きく頷いて答える。


「ええ、勿論。

…天の動きを学んでいる学問所をいくつか訪ねてみて分かったの。
日食が起こるのは、必ず新月の日だって。

…つまり、今日。」


「えっ!?」


花音は声を上げ、殿は目を見開く。


「…今日…日食が…?」


(そんな…いきなり…!?)


戸惑い 困る花音に、鈴蘭は言う。


「それがね、確証が無いのよ。

この国の暦は、大陸(中国)で使われているものを使っていて、日食がいつ起こるのかも書いてあるそうよ。

でも、微妙にずれが生じていて、

おそらく翌々月の新月だとは思うけれど、来月かもしれない。

なんて言われたから、二日間走って、大慌てで帰ってきたの。」


「ん?来月?」


(いつの間に月が変わったの?)


不思議そうな顔の花音を見て、殿が耳元で囁く。


「新月から次の新月までが一月だ。つまり、今日から神無月だな。」


「神無月…。」


(って、確か10月だよね。

じゃあ私は、ほとんど1ヶ月近く こっちにいるって事…!?

いろいろあり過ぎて、全然考えてなかった…!)


時の流れの早さに戸惑い、唖然とする花音。
そんな中、殿は鈴蘭に確認した。

 

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