狼の花園〈完〉【修正版】

雷雨の中に /やって来た男…?



夜が明けても、自分の無力さに落ち込んでいた花音だったが、


「一つ、花音に頼みたい事があるのだが、良いか?」


と殿に言われ、すぐに返事をする。


「はい!もちろんです!」


気合いの入った花音を見て微笑んだ殿は、懐から書状を取り出して花音に渡した。


「江戸からの善光寺参りのついでに、弟の輝幸(てるゆき)が竹代の城下に立ち寄る。

花音には、この書状を弟に届けて貰いたいのだ。」


「え…?殿様は会いに行かないんですか?」


首を傾げる花音に、殿は頬を掻いて残念そうに答える。


「外様大名の藩主と弟が会うなんて、幕府の者が知れば妙な事を勘繰りそうだからな。

迂闊に目を付けられるような事はしたくない。

必要な事は書状に書いた。
俺の事を聞かれたら、達者にしていると伝えてくれ。」


(そっか…いろいろ大変なんだ…。
兄弟で会うのも気を遣わなきゃいけないなんて…。)


書状を両手で大事そうに持った花音は、そう思いながら強く頷いた。


「はい、分かりました!

…えっと…弟さんは、城下のどこに来るんですか?私 1人でも行ける所ですか?」


少し不安そうに言う花音の頭に手を置き、殿は柔らかく笑う。


「俺がお前を一人で行かせる筈がないだろう。

お前に何かあったら困る。
供には鈴蘭と、念の為に与市を行かせる。」


「えっ!?鈴蘭さん…ですか?」


花音が眉をひそめたので、殿は尋ねる。


「…鈴蘭では不安か?」


「あ、いえ、そうじゃないんです。

…昨日の夜の鈴蘭さん、熱があるような感じだったから、今日はもう大丈夫なのかな…って。」


首を振った花音がそう言うと、殿は腕を組んだ。


「俺が見た限りでは普通にしていたが…、鈴蘭は俺に そういう面を見せないからな…。

…悪いが、少し気をつけて様子を見てやってくれ。」


「はい、そうします。」


大きく頷いた花音に、殿は困ったように笑う。


「まぁ、休めと言って素直に従う奴ではないから、困るのだが…。」


(…確かに そうかも…。)


花音は昨夜の事を思い出して目を伏せた。
そんな花音に殿が尋ねる。


「…俺を…恨めしく思うか…?」


「えっ?」

 

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