狼の花園〈完〉【修正版】

雷雨の中に /衝突する本音



殿が奥座敷に戻ってきたのは、日付が変わる少し前だった。


(…花音は もう寝てしまっただろうか…?)


なんて考えていたら、自然と足が花音の部屋に向かう。

そんな自分に驚きつつも、殿は自分に言い聞かせる。


(……寝ていたら、顔だけ見て部屋に戻ろう。)


そう決めていたので、
花音の部屋から光が洩れているのを見た殿は、心が踊った。

けれども気恥ずかしいので、嬉しい思いが声に表れないように気を付けながら、襖の向こうへ声を掛ける。


「…花音、まだ起きているのか?」


しかし 返事が無い。


「…花音?」


不審に思った殿は襖を開け、中に花音の姿が無いのを見て唖然とする。


(…こんな夜更けに何処へ…?
もしや、俺の部屋に来ているのか?)


そう思った殿は、すぐさま踵を返して自分の部屋に向かった。

殿の部屋からも光が洩れていて、殿は勢いよく襖を開ける。


「花音!」


けれど その部屋には、行灯が置かれているだけで誰もいなかった。


「…っ…。」


急に不安になり、殿は拳を握り、眉を寄せる。

そんな殿に後ろから声が掛かった。


「どうしました?」


「っ!?…なんだ、お前か。」


その声の主が 鈴蘭だった事に肩を落とした殿だったが、
花音の事が心配なので、すぐに尋ねる。


「姫の姿が見えないのだが、知らないか?」


それを聞いた鈴蘭は、実に愉しそうに、艶のある笑みを浮かべて答えた。


「…何処にいるか、知りたいですか?」


「…知っているのなら、ふざけていないで早く教えろ。」


苛立つ殿を見て、
鈴蘭は殿の横をすり抜けて部屋に入り、寝所の襖に手を掛ける。


「…心配しなくても、ここにいますよ。」


フッと笑った鈴蘭が襖を開けると、中に花音がいた。

殿の布団の上で、すやすやと寝息を立てている。

そんな姫の姿を見た殿は安堵したが、すぐに鈴蘭を睨んだ。

微笑んだ鈴蘭は言う。


「私が連れてきてあげました。…殿の為に…ね。」


「なんだと?」

 

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