狼の花園〈完〉【修正版】

雷雨の中に /遭難



殿や竜胆が旅立ってから2日後。


「…二百九十八!二百九十九!」


鈴蘭は中庭に出て木刀を振るっていた。


「三百っ!」


そこで一息つくかと思えば、今度は木刀を置き、薙刀を手にする。

軽く額の汗を拭い、薙刀を振るい始めた所で、


「ちょっ!?鈴蘭さん!何してるんですか!?病み上がりなのに…!」


洗濯物を抱えた花音に見つかった。

薙刀を下ろし、鈴蘭はクスッと笑う。


「休んだ分は体を動かさないと、鈍ってしまうから。

山脇先生に診て貰って治ったと言われたのだから、構わないでしょう?」


すると、通り掛かった霞が苦笑して言う。


「…私の記憶が正しければ、治ったからといって、急に激しく動かないように…とも言われていた筈ですが?」


それを聞いた鈴蘭は、数回頷いて答える。


「ええ、確かに言われたわ。
だから三百回で止めたでしょう?」


「え…いや…駄目でしょう。それ。」


呆れながら笑う霞に、鈴蘭は薙刀を肩に担いで言った。


「本気のときは三千回振るうもの。こんなの遊びと変わらないわ。」


「…さ…3,000回…!?」


花音は唖然とする。
そんな花音の顔を見て、鈴蘭は微笑む。


「…でも、姫が止めろと言うのなら、ここで止めてあげてもいいわ。」


「えっ?それは もちろん、その方が良いに決まってます!
昨日 熱が下がったばっかりなんですから!」


花音がそう答えると、


「そう。分かったわ。」


鈴蘭は頷き、薙刀を壁に立て掛けた。
素直に従う鈴蘭の姿に、霞は眉をひそめる。

その目の前で鈴蘭は肩を回し、花音に言う。


「武術の稽古をしないと力が余るわ。
…その分、誘惑でも しようかしら?」


「え?えっと…誰を…?」


眉を寄せて尋ねる花音に、鈴蘭は素早く歩み寄った。
花音の顎に手を当て、顔を上げさせる。


「誰って…決まってるでしょう?」


「え…!?」


目を見開いた花音は困り顔だ。鈴蘭は目を細めて言う。


「…私が慕った大殿は もういない。

それに、輝幸様も言っていたわ。大殿の言葉に囚われるな…って。

…今の私を縛るものは、何も無い。」


そう語る鈴蘭の瞳は、獲物を狙う鷹のようだった。

 

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