狼の花園〈完〉【修正版】

苦難と試練 /犠牲



殿の身を案じて待つ花音の元に、再び竜胆からの手紙が届いたのは、
満月から5日経った頃だった。


(殿様は無事なの?…まさか…悪い知らせじゃないよね…。)


あまりに連絡が無かったので、花音の胸は不安に押し潰されそうになる。

霞も緊張の面持ちで手紙を開いた。

軽く目を通して、それから小さく笑い、花音に言う。


「残念ながら、殿の事は何も伝わってきていないそうです。

ただ 竜胆としては、姫様に伝えたい良い知らせが二つあるそうですよ。」


「良い知らせ?なんですか?」


ほんの少しだけ明るい表情を見せた花音に、霞は手紙を読んで聞かせる。


「一つ目は、妹の事。
会いに行ったら、元気に店に立って接客をしていた。

旦那も優しくて、忙しい仕事の合間に時間をとって、温泉旅に連れていってくれるらしい。

とにかく、幸せそうで元気そうだった。嬉しかったよ。

…って、これは本当に竜胆の個人的な良かった事ですよね。」


苦笑する霞に、花音も微笑む。


「確かに。」


「もう一つは…小菊さんの事のようです。

芝居は盛況で、毎回満員。
竜胆が見に行ったときには大奥の女性達が見に来ていたと書いてあります。」


霞がそう言うと、花音は目を伏せて笑った。


「小菊さん…すごく頑張ってるんですね。」


(…私も…頑張ろう…!
きっと、もうすぐ殿様は帰ってくるから。帰ってくる筈だから…!)


そう思いながら拳を握る花音に、霞は手紙の続きを読む。


「…これ以上戻って来ないなら、
上屋敷を隅々まで探検してみようかと思っている。

意外と広くて、いい暇潰しになりそうだからな。

それが終わっても信輝が帰って来なかったら、老中の屋敷に乗り込んででも、日食までに帰らせる。

あんまり心配するなよ。

…だそうですよ。なんとも竜胆らしい手紙ですね。」


霞はクスクスと、楽しそうに笑った。

花音も笑ったけれど、竜胆がそんな手紙を送ってきた理由に気付いて目を細める。


(何気ない感じで、楽しい事を書いて送ってきてくれた。

でも、きっと それって…殿様の事には進展が無いから、私が心配しないように気遣っての事なんじゃ…。)


江戸から竹代までは、およそ3日掛かる。

タイムリミットが少しずつ迫ってきているのを、花音は切に感じていた。

 

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