狼の花園〈完〉【修正版】

偽者の日々 /星空の下



その日の夕方。


「ふぅ~…。」


大きく息を吐いた花音は、奥座敷の端にある湯殿で、湯船に身体を沈めていた。

檜の香りがする木造の浴室は、四畳程の広さで、洗い場と湯船があり、小さな格子窓が付いている。

格子窓から外を見ると、太陽が沈んだばかりで、オレンジ色の残った空が、夜に飲み込まれていくようだった。

霞と共に洗濯物を全て洗った腕が、重くてだるい。


「…疲れた~…。」


そう呟いた花音は目を閉じ、鼻まで湯に浸かる。

洗濯を終えた後、それらを干して、さらに部屋の掃除まで手伝ったのだ。

力の入らない両手を見ながら、呟く。


「…今日の私、すっごく頑張った…!」


「おう、そうだな。頑張ったみたいだな。」


「っ!?えぇっ!!」


独り言に、まさかの返事が返ってきて、花音は慌てた。

声は竜胆のものだと分かったが、姿は見えない。


「竜胆さん…?まさか…覗き?」


身体を湯船にしっかり沈めて隠した花音がそう言うと、がっかりしたような声が返ってきた。


「んな訳ないだろ!失礼な奴だな。

外だよ。湯加減はどうだ?」


「外?…あ、ちょっとぬるい…かな。」


花音が素直にそう答えると、


「はいはい。仰せの通りに、お姫様。」


と返事がした。


(…もしかして…!)


花音は立ち上がり、格子窓に顔を近付け、外を見る。

すると、しゃがみ込んだ竜胆が、
湯釜に薪を入れたり、竹筒を口に当てて息を吹き込んだりしていた。

花音が声を掛ける。


「竜胆さんが沸かしてくれてるんですか?」


「あったりめぇだろ。自然に沸くわけじゃねぇんだから。」


そう言われて、花音は思わず微笑んでしまった。


(300年ちょっとしたら、
ボタン1つで、勝手に給湯して、保温してくれるようになるんだけどね。)


それから竜胆を観察する。

竜胆は顔を煤で黒くしながら、忙しく薪を出し入れしていた。


(そっか…この時代って、お風呂も薪で沸かすし、ご飯炊くのも火なんだ…!

火事も多そうだなぁ…。)


花音は思い切って言う。


「あのっ!竜胆さん!」


「ん?どした?」


「今度、お風呂の沸かし方を教えてください!」

 

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