狼の花園〈完〉【修正版】

苦難と試練 /再会



「やっと出てきましたか。
あまりに遅いので、もう竹代には戻らないつもりかと思っていましたよ。」


クスッと笑う鈴蘭に、殿は眉を寄せて尋ねる。


「お前…お久の元へ行ったのか?
お久を介して、酒井殿に俺を救わせる為に…?」


すると、鈴蘭は真っ直ぐ殿を見つめて頷いた。


「はい。そうです。

俺が お久の夫となる代わりに、殿を救ってくれるよう頼みました。」


それを聞いた殿は、目を伏せて俯く。


「なんて事を…。

お前には、俺の為に犠牲になるような事をして欲しくなかった。」


それに対して鈴蘭は、余裕のある笑みを浮かべ、言った。


「これは俺の意思です。犠牲になったとは思っていません。」


「だが…!」


何か言いたそうな殿に、鈴蘭は溜め息をつく。


「殿が今すべき事は何ですか?
竹代に少しでも早く帰り、少しでも長く姫の傍にいる事ではないのですか?」


と睨み付けるような瞳で言われ、殿は口ごもる。


「…それは…そうなのだが…。」


(これでいいのか?本当に…?)


迷う殿に、鈴蘭はもう一度、大きな溜め息をついて言った。


「…俺がここまでしたにも関わらず、
間に合わなかったなんて事になったら、俺は殿を許しません。

俺との話は、姫が帰った後でも出来ます。

それとも、殿は自分の都合で姫をこの時代に引き留めて、姫を親不孝な娘にするつもりですか?」


「……!」


ハッとした殿は、口を真一文字に結んで拳を握り締める。


(…そんな事…させられない…!)


意を決し、力強い瞳で鈴蘭を見返した殿は、


「今は竹代に帰るが、お前の事は忘れない。
いずれ、ゆっくり話をしよう。」


と言った。鈴蘭は満足そうに頷く。


「…そうですね。」


そんな様子を、


「………。」


お久は塀の陰から見ていたが、声を掛けたりはせず、目を伏せて立ち去った。


殿は その後 鈴蘭と別れて上屋敷に入ると、すぐに竜胆を探す。

しかし、忍の話によると、朝から何処かへ出掛けていて、上屋敷には いなかった。

帰り支度をする間、その忍に近所を探させたが、竜胆の姿は無い。


(…すぐに竹代に戻りたいのだが、一体何処へ…?)


困る殿の元へ、台所衆の男がやって来た。
その手には書状が2通 握られている。

 

0
  • しおりをはさむ
  • 1762
  • 1480
/ 772ページ
このページを編集する